『理念と経営』WEB記事

「勇敢に戦え」

株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長 岡田武史

   私たちの会社も、今回のコロナによって、試合はもちろんスクール活動を含むほぼすべての業務をいったん停止しました。
   選手にも社員にも不安が広がったと思います。事実、経営の厳しいチームでは契約が解除になったとか給料が半分になったという噂が飛び交いました。そのなかで私は、すべての選手と社員たちにメッセージをメールで送りました。「どんなことがあっても、われわれは会社をつぶさないし、給料を払い続ける。だから、今はとにかく耐えてほしい」という内容でした。
   大きな危機に見舞われたとき、リーダーがすべきことは、“一番大事なことから考える”ということです。コロナ禍で最も大事なことは、社員の命を守る、そして雇用を守る、この2つ。それ以外にありません。危機下では、多くの課題が噴出しますが、そこですべてに対応しようとすると、すべてが中途半端になります。
   さまざまな反対意見があったなかでも、一番大事なことをやり通すためには何が必要か。それは、リーダーの“覚悟”です。もし自分が間違ったとすれば全責任を自分が背負って辞めるという覚悟があるからこそ、その人の言葉は相手に届くのです。
   私は、1998年フランスW杯で、中心選手だった2人の選手、三浦知良と北澤豪をメンバーから外しました。その是非がマスコミやファンの間で議論となりました。私だってみんなから好かれたいし、いい人だと言われたい。けれども、そのときの私の判断には、私利私欲は1つもなく、ただチームを勝たせたいという気持ちと覚悟だけがあったから、後悔はないのです。

   「 朝の来ない夜はない」。本企画のこの言葉は、私にとっても忘れることのできない言葉です。フランスW杯が終わり、コンサドーレ札幌の監督に就任しましたが、結果を出せず苦しい日々が続きました。そんなとき、1人のサポーターが手紙をくれました。こう書かれていました。「朝の来ない夜はありません。われわれは岡田監督を信じています」。人が自分を信じてくれるということが、どれほどの救いになるか。今でも忘れられない言葉です。
   私には、選手たちによく言う言葉があります。それは、「勇敢に戦え」。たとえ試合に負けても勇気をもって戦えば、“敗者”にはならないからです。
   今、苦しんでいる中小企業の経営者の方々に、軽々しく贈る励ましなどありませんが、私は、「すべての出来事は、その人に必要なものだから起きる」という言葉が好きです。目の前の不運に見える出来事さえも、自分の成長のために起きたのだと発想を転換できれば、死に物狂いで困難に立ち向かう勇気が出てくるからです。

構成 長野 修
撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2020年9月号「巻頭特別企画」から抜粋したものです。

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