『理念と経営』WEB記事

理屈を超えた先に、「感動」が生まれる

宗教学者・山折哲雄 氏 ×  俳人・坪内稔典 氏

理屈だけでは推し量れないものがある。それこそが、俳句の醍醐味——。正岡子規研究の第一人者として知られ、「ねんてん」の俳号で現代俳句の中心的役割を担ってきた坪内氏は語る。世界的宗教学者・山折氏との縦横無尽の対談から浮かび上がってくる「人生の真理」とは。

「偉ぶる」のは、駄目になる兆候です

山折 坪内さんと初めてお会いしたのは、京都府亀岡市が主催の「光秀公のまち亀岡俳句大賞」で一緒に審査員をした時のことでしたね。

坪内 そうですね。毎年の審査で山折先生とお会いできるのが楽しみでした。

山折 「先生」はやめましょう。「山折さん」でいいですよ。あの賞も残念ながら終わってしまって、坪内さんとまた話がしたかったので、今回は私から対談相手に指名をさせていただきました。

坪内 大変に光栄です。

山折 話したいことはたくさんあります。例えば、最近日本を騒がせている、いわゆる「アーバンベア」——山から市街地に下りてくる熊が人間に及ぼす害の問題について、どうお感じですか?

坪内 僕は四国の海辺のほうで育ったものですから、熊にはなじみがなくて。

山折 坪内さんは、著作でよく宮沢賢治に言及されていますね。私も(賢治の故郷)花巻市で育ったから親しみがありますが、賢治の作品にはよく熊が出てくるじゃないですか? だから思い入れが深いのかと思っていました。

坪内 いや、私にとって思い入れが深い動物というと、やはりカバですね。

山折 カバについての著書(『カバに会う』岩波書店)までお持ちなくらいですからね。
そもそも、どうしてそんなにカバがお好きなんですか?

坪内 最初のきっかけは、お菓子の「カバヤキャラメル」でした。僕が子どもの頃、カバヤキャラメルについている券を集めて送ると、「カバヤ児童文庫」という名作文学シリーズの本が一冊もらえたんです。僕は本屋もない村で育ったので、それがうれしくて、夢中になって集めました。

―「カバヤ食品株式会社」は、1946(昭和21)年に創業された老舗の菓子メーカーですね。当時の看板商品だったカバヤキャラメルの販促用景品として、「カバヤ児童文庫」を作っていました。

坪内 同社ではカバの形をした宣伝カーを造って、全国を走らせていました。僕も子どもの頃にそれを見て、カバが好きになったのです。

山折 幼少期の文学への目覚めとカバ好きが、重なり合っていたわけですね。

坪内 はい。僕は成人してからもずっとカバ好きなのですが、時代が変わって、動物園に来る人の関心はコアラとかパンダといったかわいい動物に移ってしまいました。動物園に来る子どもたちの多くも、カバ舎は素通りです。そうなると、ますます判官贔屓でカバに肩入れするようになって、昨年は『 河馬100句』(象の森書房)という、カバを詠んだ句ばかり集めた句集まで出しました。

山折 時代に迎合せず、一つの「好き」を徹底する姿勢が坪内さんらしいですね。

坪内 僕はカバ愛を追究することで、けっこうバカにされてきました。カバとバカは似ていますしね(笑)。でも、僕はバカにされることも大事だと思っています。俳句の世界で長年やっていると、周囲から権威に祭り上げられて、自分が偉いと思い込みがちだからです。僕はそういう勘違いから自由でありたい。カバ好きを公言することで、自分の権威化を免れている面があるのです。

山折 坪内さんは、俳人としても俳句の研究者としても重鎮なのに、権威ぶったところが微塵もないですね。飄々とした軽みを、ずっと保っておられる。そこが素晴らしいと思います。

坪内 僕は、先生然として偉ぶるようになることが、俳人が駄目になる兆候だと思っています。「先生、先生」と呼ばれて、自分が偉いと錯覚するところから駄目になっていくのです。

―経営者にも通ずるお話だと思います。

構成 本誌編集長 前原政之
撮影 鷹野 晃


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本記事は、月刊『理念と経営』2026年3月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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