『理念と経営』WEB記事
特集2
2026年2月号
老舗の新たな一歩を支える、女性リーダーの活躍

株式会社 美々卯 美々卯本店megumi リーダー 島村紀子 氏
結婚や出産を機に現場を離れる女性が多い――飲食業に長年続く課題に、老舗「美々卯」が一つの答えを示し始めた。その中心に立つのは、努力を積み重ねてきた女性料理人。抜擢によって踏み出した一歩は、働き方の未来をも変える可能性を秘めている。
創業の原点を大切にした秘策
「うどんすき」で知られる美々卯には、実はそば店として始まった歴史がある。1925(大正14)年、初代・薩摩平太郎が大阪・戎橋北詰で開いたのはそばの店。だが、彼自身の考案した「うどんすき」が後に人気を博したことで、いつしか「美々卯と言えばうどん」というイメージが定着した。
4代目社長である江口公浩さんは、その原点を「もっと大切にしたい」と感じていたと語る。
「実はうちの料理人のなかには、そばの手打ち認定を持つエキスパートが30名以上いるんです。でも、お客様からは『そばなんかあるの?』と言われたりもする。だからこそ、創業の原点をもう一度見つめ直したかったんですね」
そんな思いを胸に秘めていた2024(令和6)年、建て替えによる本店の営業再開を巡り、同社は料理人不足という現実に直面。コロナ禍を経て職人の数が減り、従来の営業形態では人員が足りなかった。そのなかで江口社長が一つの試みとして立ち上げたのが、そば専門店「美々卯本店megumi」だった。スタッフは全員女性だ。
「そばの手打ちができる人を集め、うどんは置かない。営業時間も昼の11時から15時までに絞れば、子育て中の女性も力を振るえる。美々卯の原点を大切にしつつ、少ない人数でもできる“そば屋としての再出発”を目指したわけです」
この店の舵取りを託されたのが、社内随一の女性打ち手である島村紀子さん。島村さんは18歳で美々卯に入社後、わずか4年で社内に5人しかいない「そばの手打ち認定一級」を取得した料理人だ。子育てのためにパート契約で働いていた彼女は、「リーダーの打診を受けた時は、正直、戸惑いもありました」と振り返る。
「子育てもありますし、リーダーを務めるには経験が足りないのではないかと思ったんです。でも、“そばだけのお店”と聞いて、率直にうれしかったですね。美々卯にはそばへの思いが強い人も多いのに、それがなかなかお客様に伝わっていなかった。そのイメージを変える仕事だということに、興味を覚えました。それに、夕方までに仕事を終えられるのであれば、子育てとの両立もできるかもしれない。『この働き方であれば挑戦してみよう』と思えました」
新しいリーダー像のモデルケース
美々卯本店megumiのオープンは24年10月。料理人が4名、接客スタッフが2名という船出だった。
「予想していたことではありましたが、お客様の第一声は『うどんはないの?』というもの。冬にはインフルエンザで臨時休業も余儀なくされましたし、最初はリーダーとして試行錯誤の毎日でした。でも、予測できない状況をいくつも経験しながら、スタッフみんなでそれぞれを補い合う仕組みを考えていきました」
メニューにもこだわった。島村さんはこれまで胸に秘めてきた「香りそば」のシリーズ化を考案。柚や桜、胡麻など季節ごとの香りを生かしたメニューは好評を博し、徐々に常連客も増えていく。さらには「うどんすき」に代わる一品として考えた「そばしゃぶ」も、新しい美々卯の味として受け入れられていった。
江口社長はそんな島村さんの「ミドルの力」を活かすため、「店長のように数字の責任を負わせず、シフト管理と現場運営に専念するリーダー」という位置づけをまずは強調したと話す。
「年功序列で店長になる従来の美々卯のやり方を変え、現場でリーダーシップを着実に身につけてもらいたかったんです」
取材・文 稲泉 連
本記事は、月刊『理念と経営』2026年2月号「特集2」から抜粋したものです。
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