『理念と経営』WEB記事
特集1
2025年12月号
技と知を融合し、「数学」を「数楽」に変える

株式会社大橋製作所 代表取締役会長 大橋正義 氏 (右)メタル事業部 石井孝幸 氏(左)
「これは何だ?」。完成した作品が放つ謎の魅力に、関係者の胸には感動と困惑が同時に押し寄せたという。これなら子どもたちにも数学が違って見えるかもしれない――。100年企業の板金加工技術がまさかの形で花開く。
無謀な挑戦が
むしろ社員を熱くした
東京都大田区にある大橋製作所の本社の一室には、ひときわ目を引く幾何学的な金属作品が並んでいる。
ステンレスの板をレーザーで切り抜いたオブジェである「“数楽”アート」――。数学の「二変数関数」のグラフを長年培ってきた金属加工技術を用いて立体化した商品で、町の中小企業とアカデミズムとの共創から生まれた一風変わった商品だ。
この数楽アートが開発されたきっかけを、大橋正義会長はこう振り返る。
「2009(平成21)年、ある大学の数学教授の研究室を訪ねた時のことでした。装置開発の打ち合わせに出向いた営業担当者が、研究室の室内に飾ってあった紙製の立体模型にふと目を留めたんです。『これはなんですか?』と尋ねると、教授はうれしそうに手に取り、『二変数関数が描く軌跡を、格子状に組み上げて立体として表現したものです』と説明してくれました」
では、これをステンレス素材で作れたら、面白いものができるのではないか。そんな雑談をするうちに、営業担当者は思わずこう口にしていたという。
「うちでやってみましょうか」
大橋会長は当時を振り返り、「最初は本当にできるのかと半信半疑でした」と話す。
「しかし、父が興した小さな工場から始まった大橋製作所の原点には、“何もないところから考える”という創業者の姿勢がある。現場の技術者の間にもその精神が染み込んでいたんでしょうね」
実際、営業担当者が数楽アートの企画を持ち帰ると、熟練の技術者たちはすぐに未知の図形を金属で再現することに夢中になったという。当時入社したばかりだったメタル事業部の石井孝幸さんも次のように話す。
「二変数関数を立体化する図面を見た時は、衝撃を受けました。とにかく作ってみたい。その気持ちが一番大きかったですね」
だが、製作は容易ではなかった。
取材・文 稲泉連
写真提供 株式会社大橋製作所
本記事は、月刊『理念と経営』2025年12月号「特集1」から抜粋したものです。
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