『理念と経営』WEB記事

「年輪経営」という挑戦を、とことん追求する

伊那食品工業株式会社 代表取締役社長 塚越 英弘 氏

伊那食品工業は、無理をせず着実な成長を目指す「年輪経営」で、50期連続増収増益を達成している。その経営を範とする財界人も少なくない。カリスマだった先代の後を継いだ塚越英弘社長が自らに課す使命とは。

環境のいいところで木も人も成長する

当社では経営の目的を「社員の給料を上げること」に据えています。業績がよくなったから給料を増やすのではなく、給料を増やすために業績をよくする。売り上げや利益は給料を増やすための手段と位置づけています。

「いい会社をつくりましょう―たくましくそしてやさしく―」というのが当社の社是です。父(塚越寛最高顧問)がつくったものです。数字の立派な「良い会社」ではなく、気立てのいい子のような「いい会社」でありたい。究極の目的は「社員の幸せ」です。これを最優先します。人件費を削ろうとか社員をリストラしようなどという発想は存在しません。

私は1997(平成9)年に入社しました。それまで10年近く東京の会社に勤めていて故郷に戻るのもいいかなと思っていた時、父から「戻ってきてもいいぞ」と言われ帰郷しました。

社長の息子ということで入社した時から役職付きで、役職者らしく振る舞うようにしていましたが、社是に込められた思いは、実は十分には理解していませんでした。

入社して5~6年たった頃、青年会議所(JC)の勉強会が当社で行われることになりました。父の講演と、茨城県経営品質協議会の代表を務めるJCの先輩による講演という構成でした。JCの先輩は当社が目指していることをわかりやすく解説されました。それを聞いて私は当社の経営の本質を理解しました。

それまでは「社員の幸せ」と「売り上げや利益」は経営の両輪と捉えていたのですが、「社員の幸せ」を最優先する考え方が腑に落ちたのです。

根幹にあるのは経営理念の「年輪経営」です。樹木は雨が少なくても暑くても寒くても毎年必ず年輪を一つ増やします。いい商品やいいサービスを、いい形で提供することで、企業も年輪のように持続的な成長をする。過度の成長を求めるのはおかしいというのが当社の考え方です。

ですから当社には数値目標はありません。これだけの売り上げや利益を達成しようといった目標を会社は設定しないのです。社員個々人やチームで自主的に目標を設定することはあります。自分たちで決めたものですから自主的に本気で取り組みます。

取材・文 中山秀樹
写真提供 伊那食品工業株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2025年10月号「特集1」から抜粋したものです。

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