『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2025年9月号
顧客目線に徹すれば、 打つべき手が見える

株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口 力 氏
熊本県山鹿市にある小さな工務店をテクノロジーを駆使した先端的住宅メーカーへ導き、東証上場も果たした瀬口社長。業界の常識を覆すイノベーションを手がけながら培った体験的経営論に迫る。
何を差し置いても「お客様を大事に」
東証グロースに上場している住宅メーカー、Lib Workの本社は熊本県山鹿市にある。コンビニまで歩いて40分、見渡す限り山と水田が広がる場所だという。
父・正行さんが創業した従業員4名ほどの工務店を、瀬口さんが継いだのは弁護士を目指していた大学院4年生の時のことである。
父は、末期がんに冒され、発見から2年も経たずに他界した。告別式の参列者はみんな「よか家ば建ててもろた」と感謝を口にした。
「父が生前語っていた『こんないい仕事はない』という言葉の意味が少しわかった気がしたんです」
そう話す瀬口さんは喪主挨拶で、思わず「会社は僕が守ります」と宣言した。1999(平成11)年2月、25歳だった。
―まず理念づくりに取り組まれたと聞いています。
瀬口 そうです。父の看病をしながら病床で話すうちに、僕は父の考えに共感したんです。社長になった時、創業者である父の思いを言語化してこれから入ってくる社員たちに伝えていかなければいけない。そう思ったんです。
―何に共感されたのでしょう?
瀬口 例えば「社長はお客様の代弁者であるべし」とか、「こぎゃんよか仕事はなかばい。よか仕事ばすればみんな喜んでくれる」「俺はお客様の夢を叶える仕事ばしよるだけやけん」……。そういう言葉を思い出してはノートに書いていき、理念をつくっていったんです。
その間、松下幸之助さんや稲盛和夫さん、最近ではアマゾンのジェフ・ベゾスさんなど素晴らしい経営者たちの本も読みました。
僕は法律を勉強していて経営のことはわかりませんでしたから。すると、どの本も経営には企業理念がいかに大切なのかが書かれていました。
―そうしてつくられたのが、「顧客を第一として考え、世界中に感動を与えるものを発信し、顧客の夢の実現に貢献する」ですね。
瀬口 はい。何を差し置いても、お客様を大事にしていくという父の思いを込めました。
―ここには「家」や「住宅」「住まい」といった言葉はありません。
瀬口 ええ。当時、「モーニング娘。」がすごく流行っていました。
どんどんメンバーは入れ替わるのに、「モーニング娘。」としての人気は衰えない。いったいなぜだろうと不思議に思ったんです。気づいたのは、メンバーよりも〝モー娘〞のコンセプトや理念に人々は共感して応援しているんだということでした。これは会社を存続させていくためにも大事なことだと感じたんです。理念さえしっかりしていけば事業はどんどん変わってもいい、と。
―慧眼ですね。理念をつくって、ご自身、変わりましたか。
瀬口 何か、父がそばにいて一緒に経営に当たってくれているような安心感を得ることができました。何かに迷う時も、理念があるからこそ自分は何のために仕事をしているんだ、と立ち止まることができます。
仕事を「自分事」化するための制度作り
― 理念をつくられてから、具体的にされたことは?
瀬口 まず、父の仕事を請け負ってくれていた棟梁たちに会いました。12、3名でしょうか。自宅の広間に集まってもらって、理念や今後の方針などを話したんです。
棟梁たちは自分たちが仕事を教えるから現場に来いと言います。彼らは現場第一主義なんですね。それに従うと顧客の側に立てません。僕は「大工仕事を覚える気はありません」ときっぱり断りました。顧客第一主義で仕事を取ってくるので、皆さんはこれまで通りいい仕事をしてください、と。
― 25歳の青年が棟梁たちの〝圧〞を突っぱねたわけですね。
瀬口 ここで弱気を見せてはいけないと腹を括っていました。これも理念をつくっていたおかげだと思います。僕の方針に従えず辞める人がいても仕方ないと覚悟を決めていたんです。その日には無理でしたが、時間をかけて一対一で話をすると理解してくれました。
僕は弁護士を諦めた自分を納得させるためにも、当初から上場を目標にしていましたが、まずは山鹿市で一番になろうと思いました。
―上場への一歩ですね。
瀬口 だけど、他の住宅メーカーのように展示場にモデルハウスを建てて維持していくだけの資金がありませんでした。だからネットで集客できるようにしたいと考え、すぐにホームページを立ち上げたんです。
―インターネットの黎明期でしたね。反響はありましたか?
瀬口 月に2、3件の反応がある程度でした。だから、地道に営業を続けていきました。
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取材・文 鳥飼新市
撮影 富本真之
本記事は、月刊『理念と経営』2025年9月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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