『理念と経営』WEB記事

第3回 役割性格

スポーツ心理学博士
株式会社Peak Performance Direction代表取締役 布施努 氏

自分に向いていない仕事を与えられて困った時は「役割性格」の思考法を試してみてほしい。理想を実現する上で、素の自分で挑むことが必ずしも最適とは限らない。別の自分を演じるなかで、可能性が見つかることもあるのだ。

女子100m王者の
緊張を集中に変える術

前回は、大きな目標と小さな目標、最高目標と最低目標について解説しました。

簡単におさらいです。大きな目標のポイントは、「自分がワクワクするかどうか」。小さな目標は、大きな目標に挑むために逆算して設定し、「2週間か1カ月で成長が実感できる内容」にしましょう。

最高目標と最低目標は、小さな目標の中で立てます。最高目標は常に達成できるものではないので、自分のその日の状態にかかわらず「いつでもどこでもできる」目標を最低目標として設定します。この目標を併せ持つことで、自分の今できうるパフォーマンスに必要なことに意識を向けられます。

この目標設定能力が高いのが、トップアスリートです。私は今、日本陸上競技連盟のライフスキル特別講師をしていて、女子100mと200mの日本記録保持者で、3年前に引退した福島千里さんから話を聞く機会があったのですが、「さすが王者」と感じました。

福島さんによると、1年のうちベストコンディションなのはわずか2週間程度なので、ベストじゃないことが日常だと捉える。それを前提に、日々の練習で当日の自分の状態を把握して「こうしてみたら」を繰り返したといいます。

1年近く経つと、最高の状態ではなくとも、その時点のベストな状態を維持しながら少しでも最高に近づけるポイントを見つけられるようになったそうです。それが彼女の最低目標です。その中の一つはトロッティング(スキップ)の際に実際の地面からの跳ね返りと自分がイメージする跳ね返りを合わせることでした。その合わせ方は、日々の練習の中での試行錯誤から引き出しができてきました。

福島さんに「日本選手権は緊張しますか?」と尋ねたら、「すごく緊張する」そうで、前日に眠れないこともあると言いました。ただ、試合前にトロッティングをする際、自分のイメージと実際の跳ね返りを合わせ始めると、「緊張が集中に変わる瞬間」があるのだそうです。

福島さんのようなトップアスリートを評価する時に「メンタルが強い」という言葉をよく見かけます。しかし、実際に重要なのは

構成 川内イオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2025年7月号「情熱の思考法」から抜粋したものです。

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