『理念と経営』WEB記事

スタートアップの強みをわが社に取り入れるには?

関西学院大学経済学部 教授/同アントレプレナーシップ研究センター長 加藤雅俊 氏

硬直した組織に新風を吹き込もう

規模の大小にかかわらず、企業の課題は資源や組織が固定化してしまうことです。製品やサービスの売り上げが安定すると、そこを守ろうとする一方で、新しいことに挑戦する意欲は減退します。

しかし、現状維持は低迷、衰退につながりかねず、成長するためには遅かれ早かれこれまでにない取り組みを始める必要があります。そこで重要なのは、固定観念を持たないこと。スタートアップは、有力な自社製品やサービスを持たず、イノベーションを生み出すことで得られるリターンが大きいので、常に新しいソリューションを探索しています。

守りの経営から脱却したいのであれば、まず、固定観念を捨てましょう。そのために求められるのは、組織に新風を吹き込むこと。新たに人材を雇用したり、新しい取引先や連携先を開拓するのが、わかりやすい方策です。

雇用や取引関係の新規開拓はすぐには難しいという中小企業もあると思いますが、注目すべきは他社に一定期間、社員を武者修行に派遣するという方法です。例えば、2015(平成27)年創業のローンディールという会社は、大企業とスタートアップの間で人材交流を一定期間行う「企業間レンタル移籍プラットフォーム」を運営しています。私が知る事例では、農林水産省の役人がスタートアップに移籍していました。すると、雇用のリスクを負うことなく、新しいアイデアを取り入れることができますし、移籍してきた人材が働く業界の情報を得ることもできます。限られた期間だとしても、人が出入りすることで組織に刺激を与えることが重要なのです。

フラットな組織はアイデアが届きやすい

スタートアップらしいスタイルを導入して、アイデアを事業化しやすい仕組みを取り入れることもできるでしょう。

スタートアップの特徴は、意思決定の速さ。それを可能にしているのは、フラットな組織です。大半のスタートアップはそもそも従業員の数が少なく、横並びのため、相互に切磋琢磨してアイデアを出し合い、それをトップに上げ、採用されたらすぐ実行に移すことができます。このスピード感が、スタートアップの強みです。

しかし、組織がある程度の規模になって階層ができ始めると、その分、意思決定のスピードが遅くなりますし、社員からのアイデアがトップに届く前にどこかの段階で止められてしまうということも考えられます。

従来の階層型の組織をフラットに変えることで、アイデアを口にしやすい、アイデアを採用しやすい組織にすることもできるでしょう。また、組織の形を変えることで、良くも悪くも社内がかき回されます。それ自体が、アイデアを呼び込む新風になり得ます。

取材・文 川内イオ
写真提供 本人


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本記事は、月刊『理念と経営』2025年7月号「特集」から抜粋したものです。

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