『理念と経営』WEB記事

コンクリートメーカーが挑む、未来のインフラ革命

會澤高圧コンクリート株式会社 代表取締役社長 會澤祥弘 氏

祖業であるコンクリートを軸に、イノベーティブな挑戦を続ける背景には何があるのか。創業家3代目の會澤社長が語る、老舗企業だからこそ可能な革新の本質とは。

家訓は「コンクリート以外やるな」

北海道を拠点に長い歴史を築いてきた會澤高圧コンクリートは、業界で道内トップの地位にあると同時に、「コンクリートとテクノロジーの融合」によるイノベーションを果敢に進めている。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同開発する蓄電機能を持つコンクリート、自己再生する機能を持つ自己治癒コンクリート、さらには3Dプリンターやドローン技術を活用した製品……。業界の常識を覆す革新的なアイデアを次々に実現しようとする原動力とは、果たしてどのようなものなのだろうか。

このイノベーションを牽引する會澤祥弘社長は、創業者から引き継がれてきた精神に「コンクリート以外やるな」(Do nothing but concrete)という家訓があると強調する。そのような事業に対する制限が、結果的にさまざまな挑戦へとつながってきたのだ、と。

「手足を縛る戒めがあったからこそ、コンクリートというテーマを深く掘り続け、素材の可能性を最大限に引き出す姿勢を持ち続けられたのだと思っています」

日本経済新聞社のニューヨーク特派員だった會澤さんが、家業である同社に入社したのは1998(平成10)年。当時、コンクリート業界は極めて保守的な構造の中に置かれていたという。特にイノベーションを妨げていたのが、日本産業規格(JIS)によって「コンクリートの作り方」が隅々まで規定されていることだった。

「そうした業界の保守的な状況に対する『疑問』や『怒り』が、私の発想の大きな原動力でした。コンクリートの『作り方』が国によって決められている業界で、それでも自分たちのやり方を貫く。国際標準化機構(ISO)の枠組みを使って性能評価型のモノづくりへと180度転換することを決めたんです」

その結果の1つとして生まれたのが2000(同12)年、業界に衝撃を与えた「OOPS!(ウップス)」だった。独自開発した無人の小型プラントを10基以上ネットワークでつなげ、わずか2名のスタッフがクリック1つで全プラントと50台を超える車両を制御する仕組みを実現した。

普及が始まったばかりのインターネットの産業利用にいち早く挑み、複数の現場へと生コンを効率的に送り届けられるようになった。

このとき、同社は地元の札幌で7つの工場を保有し、域内でのシェアもトップに入っていた。これに10基のネットワークプラントを追加で配置。24時間稼働体制を整備し、市場を一気に制圧する「飽和作戦」を展開した。イノベーションによって業界の常識を刷新し、これまでの構造を再設計することで、他社との競争における優位性と新たな「秩序」を築いたのである。

常識を変えるイノベーションの数々

「コンクリートがクールで、世の中に欠かせないものになる未来をつくりたいんです」と會澤社長は言う。

例えば、「蓄電コンクリート」はコンクリートという建材を、エネルギーを貯蔵・制御できる素材へと進化させるものだ。これにより見いだされるのは、建物やインフラ自体が電力を蓄える未来である。また、自己治癒機能を持つコンクリートでは、建物のメンテナンスコストや安全性に対する常識を変えることを目指す。



取材・文 稲泉 連
写真提供 會澤高圧コンクリート株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2025年5月号「特集」から抜粋したものです。

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