『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2025年5月号
OSHIBORIを世界の共通言語に

FSX株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 藤波克之 氏
多種多様な高付加価値のおしぼりを製造するFSX(東京都国立)。ファミリービジネスをグローカルに展開する取り組みは、中小企業にとってこれからの闘い方の一つと言える。
“攻め”の気持ちを社名に込めた
中央自動車道の国立府中インターチェンジを降り少し走ると、赤い「X」のロゴがひときわ目立つビルが見える。FSXの本社工場だ。
FSXは、おしぼりの会社である。が、社名だけではわからない。1967(昭和42)年、2代目である藤波克之さんの父・璋光さんが「藤波タオルサービス」として創業。2016(平成28)年、50周年を機にFSXに社名変更をしたのである。「ずっと海外展開をしたいと思っていまして、海外でも通じるように“攻め”の気持ちを、この名前に託したんです」
藤波さんは、そう言うのだ。
―FSXは、藤波サービスエクスプレスの頭文字だそうですね。
藤波 はい。一点、「X」だけは「Express」ではなく、造語で「Xpress」にしています。
―ああ、それで「X」……。
藤波 「藤波(F)とサービス(S)を掛け合わせて無限(X)の可能性をつくっていく」という思いを込めました。無限に押し出す「プレス」です。同時に本来の単語の「Express」には速く届ける「急行」という意味、また「表現」という意味もあるので、クリエーティブなイメージも出せると思いました。私は、長く社名を変えたいと思っていて、いろいろ考えてようやく肚に落ちた名前です。
―Xに思いが込められているわけですね。だから赤く大きい。
藤波 その通りです。いわば、私たちの思いのシンボルです。
―入社は2004(同16)年、30歳のときです。いきさつは?
藤波 私はNTTグループに勤めていたんですが、父が体を壊したことがありました。普段は気丈な母も少しうろたえていて、母を安心させようと「30歳になったら会社に入るよ」と答えたんです。母はすごく喜びました。父は回復するんですが、2年後、30歳のときに言葉通り入社しました。
―会社はどんな状況でした?
藤波 順調だったと思います。東京西郊の多摩地域が商圏だったのですが、都内にも進出し始めた頃でした。社員が私と同世代で若かったこともありがたかったです。父が言うには、年配の人たちは「いい感じで独立していった」と。だから、私は上から抑えられることはありませんでした。逆にみんなは「新しい風を吹かせてくださいよ」と言ってくれました。
それと私が感じたのは、父が会社の規模よりも質を追求していることでした。社員20名でパート・アルバイトを入れて100名くらいの会社でしたが、父や母が常に社員の成長を願っていたし、顧客ファーストの思いもあってお客様に対するサービスをすごく熱心にやっていました。こうしたことは自社の強みだなと思いました。
―逆に弱みと感じたのは?
藤波 ITなどのテクノロジーに弱い、時代の波に乗れていないことです。見積もりなどもすべてファクスでした。最初はこういうところを整備していくのが自分の役目かなと思っていました。
業種を変えずに業態を変えなさい
―おしぼりは非常にニッチな業界ですが、入社前はどんなイメージをお持ちでした?
藤波 当時はレンタルの布おしぼりしかやっていませんでした。おしぼりの配達や回収は、結構肉体労働なんです。学生時代にバイトをしていたのでそれはわかっていて、入社前にはジムで体を鍛えていました。100円、1000円の違いで契約が決まる価格競争の業界で、いまのままでは将来は暗い。商品に何か付加価値がないとダメだとも思っていました。
―なんとか差別化したい、と?
藤波 はい。お客様に選ばれる強い会社にしたいという思いはあったんですが、何をしていいかわからない。少しでもヒントを見つけようと、ありとあらゆる異業種交流会や勉強会などに参加していました。そこで挨拶すると「おしぼり屋か」なんてちょっと下に見られる言い方をされることもあって、その悔しさが強い会社にしたいというバネにもなりました。
もう一つ、私の背中を押してくれたのが、ある経営者の方の言葉でした。その方は、私の話を聞いたうえで、「藤波君は、業種を変えずに業態を変えなさい」とアドバイスをくださったのです。“あっ、面白い”と、この言葉は刺さりました。
『理念と経営』公式YouTubeにてインタビュー動画を公開!
(https://youtu.be/Zqx07o99hf0 ※毎月20日公開!)
取材・文 中之町新
撮影 後藤さくら
本記事は、月刊『理念と経営』2025年5月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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