『理念と経営』WEB記事
特集2
2025年4月号
与えられた仕事に向き合いつつ俯瞰して見ることも忘れずに

日本人材マネジメント協会会長 中島豊 氏
中島豊さんは、日本で人材マネジメントに携わる人たちが、情報交換や調査研究・出版などの活動に取り組む協会の会長を務める。人材育成に直結する仕事を通じて、さまざまな企業の若手を見てきたからこそ語れる、伸びる社会人の極意とは。
同僚の一言で人事の本質に気づく
富士通に入社して10年間、人事を経験。米国留学を経て、ゼネラルモーターズなどの外資系企業や楽天など日本企業でもキャリアを積み、人事のプロフェッショナルとして知られるのが、中島さんだ。しかし、最初に人事に配属されることを耳にしたときは、嫌でしょうがなかったという。
「海外に行きたい、営業をやってみたい、と思っていましたから。それでも人事の仕事を続けていたら、留学のチャンスに出合うことになりました。そのとき、日本企業の強みの一つが、日本的な人事だったことを知ったんです」
国際人事制度比較をテーマに留学することになった。そこで米国の人事に関心を持ったことが、外資系企業への転身につながる。やがてキャリアを通じて、人事の仕事のなんたるかを知ることになった。
「富士通で担当していたのは、労務管理がほとんどだったんですね。そうではなくて、戦略的な人事管理というものがあることを知るんです。さらに1990年代にはすでにダイバーシティーの話も出てきていて。人事って、こんな幅の広いものなのか、と改めてわかったんです」
そして衝撃を受けたのは、転職を重ねて人事のリーダーを務めることになった会社で、カナダ人の同僚に投げかけられた、こんな問いだった。何にどれだけの時間をかけているか、考えたことはあるか、と。
「それでわかったのは、8割ほどがルーティン(決まり事・日課)のような仕事をしていて、2割ほどが考える時間になっていたことだったんです。すると、これが逆にならないといけないんだ、と言われました。人事のトップは、どうビジネスに貢献するか、どう経営陣の要望に応えるかなど、経営に関わることについて考える時間に8割当てないとダメなんだ、と」
人事は、まさに経営陣のパートナーたる役割であることをはっきりと知るのだ。こうして人事マネジャーから、経営者の右腕としての存在へと意識を転換していく。キャリアは、さらなる広がりを見せることになった。
「仕事について、向いた仕事がある、やりたいことをやったほうがいいなど、世の中ではいろんなことが言われます。ただ、一つ言えることは、ばからしいと思っても、まずは一度、与えられた仕事をまじめにやってみてほしいということです。そうでないと見えないことがあるから。一回やってみて、どこが嫌なのか、何が違うと思うのか、しっかり考えてみたほうがいい」
取材・文 上阪 徹
撮影 後藤さくら
本記事は、月刊『理念と経営』2025年4月号「特集2」から抜粋したものです。
理念と経営にご興味がある方へ
無料メールマガジン
メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。