『理念と経営』WEB記事
特集1
2025年4月号
改革は全力で進める 社員はみな成長したいのだから

日置電機株式会社 代表取締役 岡澤尊宏 氏
社員が成長すれば会社も育つとはよく言うが、社員のためにここまでの具体策をとる企業が他にあるだろうか。「会社を通して成長できるのは会社が約束していることですから」とさらりと言ってのける岡澤社長。その思考と実践を紐解く。
労使の争いを経て優良企業に生まれ変わった
昔は激しい労働争議が繰り返された日置電機だが、現在は、働きがいのある会社研究所(通称GPTW)の認定する「働きがい認定企業」として5年連続で高い評価を受ける。一体この変わりようは何なのか。
日置電機は、アジア、ヨーロッパ、北米を中心にグローバル展開を進めている電気計測器メーカーだ。設立は1952(昭和27)年(創業は1935年)。当時は、労使が激しく対立し、社内にシュプレヒコールが響くのも日常茶飯事。「ストライキを実施するなら会社のトイレは使うな」と主張する経営陣に対して、労働者側は最寄りの駅まで行って用を足したという、今では笑い話のようなエピソードもある。
労使がにらみ合う時代が長らく続いたが、「こんな労働環境ではいい会社にはならない」との反省に立ち、70年代からさまざまな改革が始まった。例えば、部課長クラスの役職者と組合執行部が給与体系などについて腹を割って話し合う「給与委員会」。また、会社役員と組合執行幹部が経営の核心部分について話し合う「経営懇談会」。これらは今も毎月1回開催されている。
さらに社員の意識調査のため「志向調査」を実施。社内のさまざまな項目に対して社員が5段階で評価をするもの。この調査で特に重視したのが「自由意見」だ。匿名で会社に対する意見や要望を書くのである。辛辣な意見も多く出るが、テーマごとに要約して社内公開で回答し、必要と判断した案件は実際の経営改善にも取り入れた。
また、今でこそコーポレートガバナンス強化のための社外取締役は広く浸透したが、日置電機は早い段階から社外の有識者に指導を仰ぐことを続けてきて、今では一つの企業文化となっている。そして、86(同61)年には「人間性の尊重」と「社会への貢献」という企業理念を制定し、進むべき道がさらに明確となった。
人の成長欲求を引き出し、企業理念を体現する
こうした創業家の英断ともいえるさまざまな改革によって〝働きやすさ〞の改善が進んだ時期の2021(令和3)年、岡澤尊宏氏が8代目社長に就任。実質的に創業家が外れた経営へと切り替わった。
岡澤社長が、創業家からの意思を引き継いで取り組んだものの一つが、社員の意識調査だ。それまでは「志向調査」という独自の方法で取り組んできたが、それに代わってGPTWによる外部サーベイ「『働きがいのある会社』調査」を取り入れた。その違いは、
取材・文 長野修
写真提供 日置電機株式会社
本記事は、月刊『理念と経営』2025年4月号「特集1」から抜粋したものです。
理念と経営にご興味がある方へ
無料メールマガジン
メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。