『理念と経営』WEB記事
特集1
2025年3月号
自律型人材の育成を急げ!

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授 岩本隆 氏
社員一人ひとりが活躍する組織づくりに大切なこととは? 人的資本経営に詳しい岩本氏は、松下幸之助氏が述べた「企業は人なり」の原点にいま一度立ち返る必要があると説く。
「金太郎飴型」人材はもう通用しない
――有能な社員や特定の分野に飛び抜けた才能を持つ社員を生かすために、経営者が前提として考えておくべきことを教えてください。
岩本 戦後の日本企業は量産型製造業の成長とともに発展してきました。特に中小企業は大企業からの下請け仕事を中心に行ってきたため、指示された業務を正確に行う能力が社員には求められました。一方、自ら考えて行動する主体性や創造力については、求められる機会が少なかったわけです。
ところが、1990年代以降、量産型製造業の多くはアジアを中心に海外へ移転し、下請け仕事が減少します。そのなかで日本企業が抱えることになったのが、業務を言われた通りにこなす「金太郎飴型」の人材育成からの脱却という課題でした。
社員が受け身の姿勢である組織は硬直化し、変化の激しい時代を生き残れません。よって従来の人事や人材育成の考え方を変え、新しいビジネスアイデアを生み出すような社員を生かす組織づくりが必要となります。そのためには、組織全体が新しい価値を生み出す体質へ転換を図らなければならない。かつて松下幸之助氏は「企業は人なり」と言いましたが、この言葉は社員一人ひとりの力を引き出すことが、企業の成長へとつながるという「人的資本経営」を意味するものでしょう。その原点にいま一度立ち返るべきなのです。
――そのなかで、岩本先生は自律型人材の重要性について語られています。自律型人材が企業にもたらす価値とはどのようなものでしょうか。
岩本 自律型人材とは、自ら考え、主体的に行動する人材です。上司の指示を待つのではなく、社員一人ひとりが自身の役割や目標を理解し、自ら動いて成果を出す。こうした文化は海外では一般的ですが、日本企業ではまだまだ根付いていません。経営者や上司が主導で仕事を進めることが多い中小企業では、なおさらでしょう。
しかし、グローバル化や産業構造の変化が進む中で、自律型人材の育成は企業の生き残りにとって不可欠な要素です。自律型人材が育っている会社では、新しいビジネスアイデアの創出や問題解決のスピードが向上し、組織全体の柔軟性や競争力が高まります。また、社員が自らの成長を実感しながら働ける環境は、離職率の低下やモチベーションの向上にもつながります。
ピープルマネジメントをサポート役に任せる
――そうした文化をつくりだしていくために、企業経営者には何ができるでしょうか。
岩本 自律型人材を育てて生かすためには、経営者自身が社員の心理的安全性を確保することがとても大切です。つまり、社員が本音で意見を出し合える環境をつくること。忖度や遠慮がない空気が組織全体に広がれば、創造的なアイデアや新しい発想が生まれやすくなります。具体的には、経営者やリーダーが一人ひとりの社員の意見をしっかりと聞き、どんな小さな提案でもまずは受け止める姿勢を示す。社員の声を拾い上げ、議論を広げていく文化を地道につくるわけです。例えば、社内のイベントやアイデア出しのセッションを定期的に行い、社員同士が上下関係や年齢にとらわれず意見を出し合う場を設けるのもその一つです。言うまでもなく、若手の抜擢や多様な人材の活用も重要です。
取材・文 稲泉 連
写真提供 本人
本記事は、月刊『理念と経営』2025年3月号「特集1」から抜粋したものです。
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