『理念と経営』WEB記事
特集2
2025年2月号
「人のために火をともす」人でありたい

株式会社MIYOSHI 代表取締役 佐藤英吉 氏
元請けからの一方的な取引停止要求。仕事でつながっていた関係者は手のひらを返すように去っていった……。どん底のなかで支えてくれた人たちとの出会いが、その後の人生を変えていく。
「このままいけば傷口が広がる」
「寄付経営」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは、寄付をするために会社経営をするということ。企業の社会貢献は当たり前の時代になってきたが、利益の大きさに応じてその一部を寄付するという発想が普通だ。
しかし、株式会社MIYOSHIは、順番が違う。余ったお金を寄付するのではなく、まず先に寄付する金額目標を立てて、その目標達成のためにお金を稼ぐのである。
2002(平成14)年に代表取締役に就任以来、佐藤英吉社長は、難民支援などに累計3億円を超える寄付活動を行ってきた。その根幹にある哲学は、「人のために火をともせば我がまへあきらかなるがごとし」という経営理念だ。日蓮の言葉だという。人のために行動すれば、自分自身の進むべき道が見え、自分自身も輝くというのである。
そうした経営姿勢は、どこから生まれてきたのか。それは、どん底のなかで支えてくれた多くの人たちとの出会いであった。
大学卒業後、丸井の販売員の仕事をしていた佐藤社長は、数年後、東京・小平で父が経営していた電気機器製造会社、日豊電子工業に入社。当時人気だった美顔器を製造していた家電メーカーの一社下請けだったので、万一の場合のリスクはあったものの、毎月安定した仕事が入ってきて経営は安定していた。
01(同13)年の夏、その家電メーカーに突然呼ばれた。言い渡されたのが「今月いっぱいで」という言葉。何が起きたのかわからなかったが、振り返ってみれば、裏でさまざまな動きがあったことが推察された。詳細は触れないが、一時的に財務が悪化したように見える日豊電子工業の決算書を、同社の下請け会社が家電メーカーにリークするなど、さまざまな思惑があったようなのだ。
会社に戻って、全社員を呼んで、事実を伝えた。佐藤社長がことの顛末を泣きながら話していると、社員の中からも嗚咽が聞こえてきた。
「営業するから安心しろ」と言いながら、その後連日、ネクタイを締めて営業に回ったが、毎月3000万円の工賃仕事を取ってくることは、ほぼ不可能だった。
「このままいけば傷口が広がる」と判断した佐藤社長は、全社員の解雇を決断。社員約40名の家庭を一軒一軒回って、おわびをした。「うちの娘は今年、大学に入ったばかりなんです」という社員の言葉が胸に刺さった。
人を支えられるような生き方を
当時、佐藤社長の妻は、3人目の子どもを出産するために入院中。退院してから会社の倒産を告げた。
父親は、体調が思わしくなかった上に過度のストレスが重なり塞ぎ込みがち。「あとの処理は全部、僕がやるから」と佐藤社長が引き受けた。
取材・文 長野 修
撮影 編集部
本記事は、月刊『理念と経営』2025年2月号「特集2」から抜粋したものです。
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