『理念と経営』WEB記事
逆境!その時、経営者は…
2025年2月号
強みを伸ばす戦略で 豆腐業界の風雲児に

株式会社佐嘉平川屋 代表取締役 平川大計 氏
家業に戻ったとき、既に経営は自転車操業だった。名物「温泉湯豆腐」の通販事業に逆転の光を見いだした平川氏が、苦難を通して学んだこととは。
火の車だった家業
活路は通販にあった
佐賀県・嬉野温泉の名物に、ホテルや旅館の朝食に提供される「温泉湯豆腐」がある。
嬉野温泉と同じ弱アルカリ性の湯で豆腐を煮ると豆腐の成分が溶け出してトロトロの食感に変わる。出来立ての豆腐よりも大豆の風味がして美味いしいと評判なのだ。
スーパーなどに卸す豆腐を製造している平川屋では、早い時期から、調理水と豆腐をセットにした「温泉湯豆腐」の通信販売も手掛けていた。
九州大学工学部大学院で学び、旧運輸省に勤めていた平川大計さんが祖父の創業した同社に戻ってきたのは、2000(平成12)年8月末のことだ。
「このまま公務員で生きるより、起業して自分の力を試してみたいと思ったんです」
辞めるなら20代のうちだと、29歳で職を辞した。まず経営の〝いろは〞を実家で学ぼうと思ったのだった。
ところが社内の雰囲気に驚いたという。活気もなく空気がよどんでいたのである。ちょうど月末で両親は資金繰りに走っていた。
「母親の疲弊した姿を見て、会社はヤバい状況なのかもしれないと思ったんです」
聞くと、売り上げの4割ほどの取引があった地元の大手スーパーが3年前に倒産した、と言う。
ショックだったのは、従業員たちが自社の豆腐を買わずに他社の豆腐を買っていたことだ。
「金策に必死だと、経営者は商品の質まで気が回らなくなるんですね。給料の遅配もあったし、従業員も手を抜くようになり豆腐の味が落ちていたんです」
そんなとき妻の実家から保証人になってほしいと頼まれた。すぐに引き受けたのだが、先方の金融機関に断られた。そこまで状況は悪いのか、と思った。
平川さんは、会社の実態を調べてみようと、あらゆる帳簿の数字をコンピーューターに入力し、商品ごとの原価率や利益率などをはじき出した。
「危機的な状態でした。ほぼ売り上げと同じくらいの債務があって金利だけでも大きな負担になっていました。でも、一つだけ希望も見えたんです」
それが「温泉湯豆腐」の通販だった。
取材・文 編集部
写真提供 株式会社佐嘉平川屋
本記事は、月刊『理念と経営』2025年2月号「逆境!その時、経営者は…」から抜粋したものです。
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