『理念と経営』WEB記事
特集1
2025年1月号
不確実な時代に効く、新市場創造の「成功の原則」

神戸大学大学院経営学研究科准教授 吉田満梨 氏
近年、新市場創造のプロセスとして「エフェクチュエーション」という思考法が注目されている。米バージニア大学のサラス・サラスバシー教授によって発見された、起業家の「成功の原則」だ。日本でこの研究をリードする吉田准教授は、新規事業を模索する中小企業にも役立つ思考法だと強調する。
元々は起業家たちの考え方
――エフェクチュエーションについて、簡単にご説明ください。
吉田 最初にゴールを定め、そこに到達するための適正な計画を立ててからそれを実行に移すという考え方が、ビジネスの世界では長い間常識でした。この前提となっているのは、市場の未来は予測できるという因果論(コーゼーション)です。ところが、近年、優秀な起業家は因果論にとらわれず、いま自分の手にある資源や手段で、新しい市場や価値を創り出すにはどうしたらいいかという発想をしていることがわかってきました。このように予測ではなく、実効性を重視する思考様式がエフェクチュエーションです。
――注目されるようになってきた背景は?
吉田 市場の不確実性が高まってきたからです。とくに日本ではコロナ禍を境にビジネス環境が大きく変わり、それ以前のアプローチが明らかに通用しなくなりました。それで、元々スタートアップや起業家の人たちの考え方であったエフェクチュエーションに、一般の企業も関心を寄せるようになってきたのだと思います。
――具体的にどう活用すればいいのでしょう。
吉田 エフェクチュエーションが威力を発揮するのは、未知の市場を開拓したり、イノベーションを起こしたりするときです。まず、自分たちにはどんな資源やネットワークがあるのかを確認し、それらを活用してどのような価値や意味ある行動が生み出せるのかを考える。そして、具体的なアイデアが見つかったら即座に行動に移すのです。新しい分野に挑戦するときは、時間をかけて準備したからといって成功確率が上がる保証はありません。商品開発なら完成品のでき上がりを待つより、青写真の段階で売り込みに行くぐらいがちょうどいいといえます。
失敗しても「経験」が糧になる
――良い案がそう簡単に思いつくでしょうか。
吉田 初期段階でアイデアの良しあしは、あまり気にしないほうがいいでしょう。アイデアはいろいろな人たちからのフィードバックを受けるうちに、アップデートしていくのが普通だからです。
――アイデアの形は変わっていいと。
吉田 はい。結果はどうであれ行動を起こせば新たなノウハウや人脈が手に入る、つまり手持ちの資源や手段は確実に増えるのです。また、コーゼーションだと顧客や競合は固定的ですが、エフェクチュエーションでは本業の競合が新たな価値創造に共感し、出資者やパートナーとしてコミットメントを提供してくれるようになるケースも珍しくはありません。
だから、たとえ最初のアイデアが頓挫したとしても、そこに至るまでのプロセスで得た経験をテコに、次のよりバージョンアップしたアイデアへと歩みを進めていけばいいのです。
ただし、こんな価値を創造するという自分たちのアイデンティティーを見失うと、経験が生かせず失敗のたびにゼロベースで次のアイデアに取り組まなければならなくなるので、そこは注意が必要です。迷ったら、企業理念などに立ち戻ってアイデアを検証するといいでしょう。
取材・文/山口雅之
写真提供/本人
本記事は、月刊『理念と経営』2025年1月号「特集1」から抜粋したものです。
理念と経営にご興味がある方へ
無料メールマガジン
メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。