『理念と経営』WEB記事
人とこの世界
2025年1月号
カラフルな生地で、世界に幸運を運びたい
株式会社RICCI EVERYDAY代表取締役COO 仲本千津 氏
「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ)」創業者の仲本千津さんが、ウガンダの女性たちとつくる、カラフルで楽しいバッグが生まれた背景には、「人の役に立ちたい」という強い思いがある。紆余曲折の末に見つけた一筋の光とは――。
心をわしづかみにされたアフリカンプリント
ウガンダに赴任し、首都カンパラに住んでまだ日が浅い、ある週末のことだった。現地の日本人の友人に誘われてローカルマーケットに行った。ある店に足を踏み入れた途端、「色の洪水に包まれた」と、仲本千津さんは言う。
生地屋である。さまざまな柄の色鮮やかな布が、折り畳まれて三方の壁一面に山積みされている。
「童心に帰って宝探しをするように、夢中で生地を引っぱり出して広げてもらっているうちに、気がつくと2、3時間たっていました」
両手で抱えるほど生地を買い、仕立て屋に行き洋服を縫ってもらった。それを着た写真を、日本の友人たちにSNSで見せると、「それいい!」と大好評だった。
弾けるような原色の色使いの迫力、動物や植物をモチーフにしたもの、幾何学模様の大胆で自由なデザイン。どの柄を見ても新鮮で、イマジネーションが刺激され、なんだか元気になってくる。
仲本さんは、いっぺんにアフリカンプリントに魅せられた。
“この生地で日本向けの服やバッグ、小物などをつくってみたらどうだろう。事業になるかもしれない”
紛争地、なかでもアフリカの貧困をなくすために自分ができることをやりたい――。そんな思いで、笹川アフリカ協会で働いていた。主にアフリカで農業支援を続けているNGOだ。3年目の2014(平成26)年6月、東アフリカのウガンダ駐在が決まった。
世界最貧国の一つである。長く続いた北部地域の紛争や偏った富の分配などが原因だ。だが、常春の住みやすい気候、物成りのいい肥沃な大地など、可能性に満ちた風土でもあった。
赴任から数カ月。仲本さんは、自分がやるべき事業のアイデアを見つけたのである。
「誰かの役に立ちたい」という志の原点
仲本さんは、小さい頃からシュバイツァー博士やマザー・テレサ、野口英世などの伝記を読むのが好きで、いつか自分も人々のために役立つような生き方をしたいと夢見ていたそうだ。
小学校5年生の夏休み、家族で川遊びに行ったときのことだった。2歳の弟が溺れた。
「これが、私の一番の原点です」。仲本さんは、そう話す。「弟は自然の力で命を奪われてしまったのですが、それでさえ家族にものすごい悲しみをもたらしました。まして紛争や貧困など、止められたはずの人災による死は、人をどれほど悲しませるのだろう。そういう状況を変えることに関われる生き方をしていきたい、と考えるようになったのです」
最初は医者になって国境なき医師団に入る、という夢を描いた。しかし高校時代、理科系の教科が自分には向いていないことを痛感した。
医者はあきらめるしかない。そんなとき世界史の授業で、国連難民高等弁務官の緒方貞子さんのドキュメンタリーを観た。
「緒方さんは、どんな紛争地でも人の命が一番大事、人の生活が一番大事という信念を貫き、まわりを巻き込み変えていきました」
自分もこういう生き方をしたい。将来は国連で働こう、と決めた。
取材・文/鳥飼新市
撮影/後藤さくら
本記事は、月刊『理念と経営』2025年1月号「人とこの世界」から抜粋したものです。
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