『理念と経営』WEB記事
単発企画
2025年1月号
日本の未来を照らすため、中小企業には何ができるか

小説家 真山 仁 氏
「小説でなら、世の中を変えられるかもしれない」――その思いが、真山仁の原動力。『ハゲタカ』シリーズでは町工場を舞台にした『スパイラル』を執筆したこともあり、今では中小企業経営者への講話を求められることも多い真山仁が、日本の未来を照らす方途を語る。
モノ作りの隆盛を極めたかつての日本の姿とは
少子高齢化や経済の衰退など、日本ではさまざまな課題が山積しています。ところが、社会人向けの勉強会に呼ばれたり、あるいは自分が勉強会を開いたりもして、いざ参加者に話を聞いてみると、実は現状に不満を感じている人はあまりいないんですね。世の中に問題があるとは思っているし、10年先に関しては不安なんですが、“今”には不満がない。
この状況は危ういと私は感じています。良くない方向に向かっている実感は、みんな持っているわけです。ところが、“今”は不満じゃないからアクションを起こそうとしない。このままではまずいと言いながら、口だけで終わってしまっている。パレスチナしかり、ウクライナしかり、世界でまさに今起きている悲劇が、「自分たちに影響を及ぼすかもしれない」という想像力も働かない。
奇跡といわれた経済発展を成し遂げた高度経済成長期、日本人は自国が世界で一流になれると信じ、「政治は間違った方向に行かないだろう」とお上に任せていた。一方で、国民はものすごく勉強していたんですね。
実際に当時、多くの人が電車の中で本を読んでいました。それこそ世の中で起こっている現実を知ろうと、山崎豊子さんや松本清張さんの社会派小説がベストセラーになったりしましたが、決して読むのに易しい小説ではありませんでした。マルクスの『資本論』、ヘーゲルやカントなどの哲学書を読む会社員も少なくなかった。
「教養がなければ世の中は見えない」とされていましたし、心のどこかで「国に騙されてはいけない」と考えるような緊張感もあった。しかし、今はそれもありません。「日本は大変だ」と口では言いながら、実感も当事者意識もない。だから現状も変わらないのだと思います。
経済も輝きを取り戻せていませんが、それはバブル崩壊の原因をきちんと検証できていないからです。反省もせず、安易に欧米型のグローバル・スタンダードを取り入れてしまった。しかし、ドライな資本主義の発想は、日本には馴染まないんです。
その影響で、せっかく良いモノを作り続けていた会社が、本業よりも株価を上げることに必死になってしまった。株価は期待値です。良いモノを作っていれば、いずれ株価も上がる。
ところが、赤字を出すと株価が下がるので大規模投資ができない。工場を造り替えられず、研究開発費が減っていく。気に掛けるのは、時価総額を上げることばかり……。結果的に、最も大事なモノ作りが、株価のために犠牲になった。
不良債権も悪いものだとされ、銀行は回収を迫られました。しかし、本当に不良債権は“悪い”一面しかなかったのでしょうか。日本には不良債権を持っていても、銀行が持ち堪えられるだけの独特のネットワークがあったんです。
それこそ地方銀行は、地元の宝である中小企業、中堅企業を支えるために、相当なハイリスクを承知で投資していた。地域のためです。そうやって成り立っていた日本の社会を、欧米的な発想ですべて否定してしまった。
日本には情を大事にする文化があります。ドライな社会では、息苦しくて生きていけない。欧米の国とは文化も風土も違うのですから、もっとウェットでいい。日本はバブル崩壊の原因をしっかり整理し、改めて“日本的な資本主義”を追求するべきだと思います。欧米的な資本主義ではなく、アジア的な日本型資本主義を確立できたら、他のアジア各国も参考にするでしょう。
今の日本企業の問題は、……
チャンスはそこら中に転がっています。中小企業にも、まだまだできることがたくさんあるはずです。
取材・文 上阪 徹
撮影 富本真之
本記事は、月刊『理念と経営』2025年1月号「単発企画」から抜粋したものです。
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