『理念と経営』WEB記事

瀬戸内の夕景を思い、商品に願いを託す

西染工株式会社 代表取締役社長 山本敏明 氏

全国的に縮小傾向にある染色業界だが、それはタオルの街・今治といえども例外ではない。そんななか、新ビジネスの原石を見事に磨き上げ、違いを見せたのが、老舗染色会社の西染工だ。

処分に困る”厄介者“がまさかのビジネスに

コロナ禍の2022(令和4)年、「今治のホコリ」というユニークな名称の着火剤がにわかにキャンプ好きの注目を集めた。

「染色したタオルを乾燥する際に大量に出るホコリはそのままではただのゴミ、しかも火花が飛んだだけで火がつくので危なくて仕方がありません。だったらこれを容器に詰めて持ち運びのできる着火剤にしたら売れるのではないかという逆転の発想の賜物です」

そう答えてくれたのは西染工の2代目社長山本敏明氏だ。同社は「今治のホコリ」を商品化するとともに「THE MAGIC HOUR」というアウトドアブランドも立ち上げている。だが、なぜ創業70年の老舗染色会社が突然畑違いの分野に乗り出したのだろう。

「染色業というのはお客様から預かった生地を言われたとおりの色に染める、完全な受託生産です。注文があるときはいいですが、景気が悪くなるとどうにもなりません。実際、私が入社してから仕事量は減り続けているのに打開策が見いだせず、業績は下降の一途でした。それで2001(平成13)年に40歳で社長になったのを機に、新しい収入源を確保するため自分たちでも商品をつくろうと決心したのです」

手始めに山本氏は愛媛県の補助金を利用して、染料用のインクジェットプリンターを導入した。しかしながら、この時点では具体的な商品化のビジョンどころかノウハウすらなかった。

「あったのは、まだ本業で稼げているうちに何か始めなければという思いだけ。インクジェットプリンターにしたのは、生地にプリントすればすぐに商品になると考えたからです。といってもインクジェットプリンターなんてそれまで触ったこともありません。使い方はやりながら覚えればいいくらいの気持ちでした」

新しい部署を設けるだけの余裕もないので、とりあえず社員が既存のお客様のところに出向くときに「プリントのご用はありませんか」とついでに声をかけてもらうことにしたが、もちろんそう簡単に仕事になるはずもない。染色会社のくせになんでそんなことをやっているのだと、同業者ばかりか社内の古株社員からも、当初は冷ややかな目で見られていたという。それでも、1年、2年と経つうちに少しずつ注文が入るようになる。すると、新事業に関心を持つ社員も増えてきた。

「あるとき、お客様から注文を聞くだけでなく、自分たちが欲しいものがあれば勝手につくっていいと社員に伝えたら、そこからいろいろなアイデアが私のところに届くようになりました。



「今治のホコリ」はデザインの魅力だけでなく、発火性・燃焼時間の面でも優れた性能を備えている

取材・文 山口雅之
写真提供 西染工株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2025年1月号「特集1」から抜粋したものです。

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