『理念と経営』WEB記事
単発企画
2024年 12月号
“非効率”だが、なぜかうまくいくスゴ腕書籍PRの仕事の極意

株式会社QUESTO 代表取締役 黒田剛 氏
この人に頼めばヒットする可能性がグッと高くなる――。書籍PRの達人として出版業界で今、熱い注目を浴びているのが黒田剛さんだ。昨今は1万部売れれば大ヒットと言われるが、黒田さんが手がけたなかには、数十万部を売り上げた作品も多い。決して有名な著者でなかったとしても、「売れる本」に育てる極意を聞いた。
非効率な営業を継続するためのルーティン
担当する本をテレビや雑誌、ラジオや新聞で紹介してもらう――。わかりやすく言うと、これが、僕の仕事です。メディアに取り上げてもらうのは、簡単なことではありません。リリースをメールで送っても、返信がないのは当たり前だ、とも思っています。だから、相手が何を必要としているかを考えて提案し続けます。
そのために、著者の取材にはすべて立ち会うようにしています。なぜなら、本の中身そのものがメディアの興味を引くとは限らないから。インタビューでの著者の話のなかから、メディアが興味を持ちそうなストーリーを見つけて、持っていくようにしています。そうして、『妻のトリセツ』シリーズは50万部を突破、『いつでも君のそばにいる』からスタートの〝葉っぱ切り絵”シリーズは30万部を突破しました。
ある意味、効率がとても悪いです。でも、営業って、非効率であることが結果的に一番うまくいくのではないか、と思っています。
この非常に手間のかかる営業を継続していくために、僕は一つのルーティンを決めています。お手本にしたのは、作家の村上春樹さんの長編小説の執筆方法です。彼は「1日10ページ書く。5ページでも50ページでもなく、10ページ。大切なのは、多くもなく少なくもなく毎日書き続けること」というのです。僕はそれをまねして、とにかく1日必ず10件、メディアに何らかの提案をすることを決めています。これを続けたところ、驚くことに多くのベストセラーが生まれました。
商品の説明ではなく、なぜそれが役立つかを提案
僕にとって1日10件の提案は、スポーツ選手にとっての基礎トレーニングです。たとえば野球のどんなスター選手でも、素振りは欠かさないはずです。
この仕事を始めてたくさんの成功者の取材に立ち会ってきました。彼らから学んだのは、基礎トレーニングの大切さでした。大きな壁を乗り越える、驚くような結果を出している人も、基礎トレーニングは継続している。これこそが、力のベースを作ってくれる。スポーツ選手に限らず、ビジネスで成功している人たちはみんなそう考えています。
僕にとっての基礎トレーニングが、この1日10件のルーティンなのです。提案先が思い浮かばなくて、苦しくなるときだってあります。でも、次々と断られながらも諦めずに提案し続けると、「それ面白いですね!」と言ってくれる人がいたりする。なんとか10件のルーティンを果たそうとするからこそ、こういう結果につながるんです。
一件のベストセラーを出すことは難しくないかもしれません。勝つことはそれほど難しくないんです。勝ち続けることが難しいんです。それを支えるのは、基礎トレーニングだと思っています。
そして提案するときには、気をつけるべき点があります。それは、本の素晴らしさを説明しないこと。相手が思わずその本を紹介したくなるような提案をすることです。僕は、営業の仕事というのは商品を説明することだとは思っていません。相手が必要としていることは何かを理解し、相手が興味を持ち、喜んだりびっくりしたりするように、説明しないといけない。そのためには、相手の立場に立ってみる。
メディアが求めているのは本の紹介ではありません。料理で言えば、メディアが欲しがっているのは、材料ではなくレシピです。メディアがレストラン、本がジャガイモだとしたら、ジャガイモの素晴らしさを提案しても意味はないんです。「この素晴らしいジャガイモを使うと、こんなおいしいカレーができますよ」というレシピを持っていかなければいけない。「たしかにこのレシピなら、お客さんが喜んでくれるかも」と思ってもらえるかが大事です。
そのために、著者の取材を徹底して聞いて、ジャガイモのおいしさを説明するのではなく、どんな料理にしたらこのジャガイモを最大限においしく食べてもらえるかを考えます。だから、僕の仕事は「非効率ですね」と言われるのです。
取材・文 上阪徹
写真提供 株式会社QUESTO(copyright 大河内 禎)
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 12月号「単発企画」から抜粋したものです。
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