『理念と経営』WEB記事
企業事例研究2
2024年 12月号
経営理念を導とし、助け合うチームへ!

株式会社アイペック 代表取締役 東出悦子 氏
北陸の社会インフラの安心・安全を守るアイペック(富山県富山市)。高い技術を持つ職人集団を時代に対応させる――その改革を進める東出社長と創業者の父は対立もしたが、実は「経営理念」で通じ合っていた。
“職人集団の悪しき側面”を根本から変える
アイペックはビルや工場、橋やトンネルなどの内部の欠陥の有無や劣化度を、対象物を壊すことなく専用の機器を使って検査している。「非破壊検査」という。人がレントゲン撮影や超音波エコーによって健康状態を調べるのと同じように、構造物を検査・調査・診断して構造物やインフラ設備の安全性を確認する。
創業は1976(昭和51)年。東出悦子社長の父、高見貞徳さん(現相談役)が富山検査株式会社として設立した。
当時、富山県では水力発電所がたくさん造られており、発電所に水を送る水圧鉄管の溶接部を検査するために大阪から技術者が来ていた。富山県内には検査のできる会社がなかった。機械の設計者だった貞徳さんは「ならば自分がやろう」と思い立ち、独学で資格を取得、非破壊検査の会社を起業したのだった。会社は目論見通り発展した。
2人姉妹の長女だった東出社長は、会社を継ぐつもりは「まったくなかった」と言う。父も「子どもには継がせない」と明言していた。
東出社長はボストン大学を卒業後、ニューヨークの会計事務所に勤務し米国公認会計士の資格を取得。帰国後は東京の金融機関に勤めたのちクルーズ船の通訳になった。
寄港地で地域振興に励む人たちの姿に心を動かされた東出社長は、「自分も地元富山で社会に役立つことをしたい」と思うようになる。やがて中小企業が社会貢献できる可能性の大きさに気づき、家業への入社を決意した。2010(平成22)年のことだ。父は会長職に退きベテラン社員が2代目社長に就いていたが、二人とも後継者に悩んでいる時期でもあった。
いざ入社すると、「衝撃でした」と後に回想する光景があった。会議に参加すると意見のやりとりはまったくなく、父が一方的に話すばかり。貞徳さんが指示し、社員はそれを黙って聞くだけ。実績と技術のある創業社長の言葉は重かったのだろう。
だが、東出社長の目には危うい側面が映った。社員一人ひとりの技術力は高いのに、情報共有は少なく、技術継承は遅れている。若手の離職が多く、技術者が育っていない。
このままだと、人材不足に陥る――。“職人集団の悪しき側面”が会社を支配していた。
「どうして誰も意見を言わないの? ここにメスを入れ、根本から変えなければと思いました」
東出社長は会議出席者の意見を引き出す技法「ファシリテーション」を自ら学び、……
非破壊検査は、例えるなら「健康診断」。社会インフラの健康状態を診て、長寿命化に貢献する
取材・文 中山秀樹
写真提供 株式会社アイペック
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 12月号「企業事例研究2」から抜粋したものです。
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