『理念と経営』WEB記事

「自律的に考える」 人材の育成に全力を注げ!

福岡ソフトバンクホークス元監督 工藤公康  氏 ✕ 帝京大学スポーツ局 局長 岩出雅之  氏

「名選手は名監督にあらず」というジンクスを覆し、福岡ソフトバンクホークスを5度の日本一に導いた工藤公康氏。一方の岩出雅之氏は、従来の体育会系的なチームのあり方を抜本的に見直し、帝京大学ラグビー部を前人未踏の大学選手権9連覇へとけん引した。2人の名将に共通する「常勝軍団のつくり方」―。

「俺についてこい」から、「共感型リーダー」の時代へ

―プロ野球と大学ラグビーを代表する「名将」同士の対談となります。お二人の指導者としての姿勢に共通項が多いと感じて、この対談を企画させていただきました。

工藤 岩出さんはラグビーを通して学生を育て、世の中に送り出していらっしゃいます。僕らは、プロ野球選手としてすでに世の中に出ている人たちを、一年でも長くプレーさせるためにサポートする立場です。その点は違いますが、指導者として共通項があるとすれば、昔みたいな「黙って俺についてこい」という監督はもう通用しなくなったからでしょうね。

いまは監督にも説明責任が求められて、問答無用では済まないですから。岩出さんも僕も、そういう時代の変化に対応して指導の姿勢を変えてきたのです。

岩出 そうですね。私たちが若手選手だった昭和時代は、体育会系の世界は昔の軍隊の延長でした。監督に口答えは許されなかったし、先輩の権威も絶対的でした。工藤さんは甲子園でも活躍されましたが、当時は高校野球の世界もそうだったと思います。

工藤 高校野球だけではなく、プロに入ってからもそうでした。監督は怖かったし、怖い先輩もいました。もっとも、僕は「はねっ返り」で、生意気なことも言っていた若手でしたけど(笑)。

岩出 私はバリバリの体育会系の世界で育ってきたので、1996(平成8)年に帝京大学ラグビー部の監督に就任してからも、最初は普通の体育会系のやり方で指導していました。でも、それから10年間、勝てなかったんですね。ある程度は強くなっても、大学選手権での優勝は一度もできなかった。

そのことで、「昔のやり方は、もう通用しないんじゃないかな」と感じ始めました。なぜなら、毎年入ってくる一年生の雰囲気が、少しずつ変わっていったからです。「黙って俺についてこい。先輩には絶対服従だ」というやり方についてこれない子が少しずつ増えていた。

考えてみれば、彼らは少子化で家庭でも親に大切にされてきたし、学校でも先生から優しくされてきました。その彼らを昔ながらの体育会系のやり方で育ててもダメだと思えてきたんです。それで、2010(同22)年くらいから、「脱・体育会系」と銘打った改革を行いました。4年生を頂点としたピラミッド構造を逆転させたんです。

―帝京大学ラグビー部の「逆・ピラミッド化」として知られる改革ですね。

岩出 ええ。従来は1年生の役割だった部内の雑務―清掃・洗濯・食事の用意などの一切を、4年生が引き受ける形に変えました。

そのことが少しずつ定着していくと、部内に対等な仲間としての関係性がつくられていきました。それまでは「先輩は怖いから従う」という権力構造でしたが、「自分たちをサポートしてくれている先輩を自然にリスペクトする」という関係に変わっていったんです。

そのことによって、部内にいわゆる「心理的安全性」が生まれて、1年生も伸び伸びとラグビーに取り組めるようになりました。帝京大学ラグビー部が17(同29)年まで9連覇を成し遂げられたのも、その改革が原動力になった面が大きかったのです。

1人で全部決める監督から、相談する監督への「進化」

工藤 僕の場合は、福岡ソフトバンクホークスの監督に就任した1年目(2015年)と2年目は、「俺についてこい」型の監督だったと思います。僕にはコーチ経験はないですし、選手時代の監督もどちらかといえば「俺についてこい」タイプばかりだったので、そのやり方しか知らなかったのです。

しかも、監督1年目にいきなりリーグ優勝と日本一が成し遂げられたので、ちょっと慢心に陥った面もありました。ところが、2年目に、最大11.5ゲーム差がついていた北海道日本ハムファイターズに大逆転されて、リーグ優勝を逃がしてしまいました。これは僕にとっては大きな挫折で、「監督としてのあり方を一から見直さないといけない」と猛省しました。そこから、何よりもまず僕自身が変わっていったのです。

岩出 工藤さんのご著書に「監督とは、『決める人間』ではなく、『準備する人間』だ」という一節がありましたが、それは16年の挫折以後にそういう考えに変わったのですね。

工藤 そうですね。それ以前は「僕のやり方でやってください」と、自分が決めたことを伝えるだけの一方通行でした。選手とのコミュニケーションも不足していたし、コーチ陣との意思疎通も足りませんでした。

コーチというのは、監督がやりたいことを実行するだけの仕事じゃなくて、監督とは違う自分なりの意見をきちんと持っているべきなんです。その上で、監督とコーチが相談しながら、お互いの意見の一致点を見つけてチームを運営していくやり方がいちばんいい。でも、それはあとから気づいたことであって、監督1、2年目はそうは思えなかったんです。自分のやり方をコーチに押しつけていました。

するとどうなるかというと、コーチの指示に対して選手が「なぜそうすべきなんですか?」と説明を求めると、コーチが「監督がそうしろと言うからだ」と答えるような状態になってしまいました。それではダメだなと反省して、コーチ陣とよく相談するように変わりました。

―中小企業における社長と管理職の関係にも通じるお話です。

工藤 17(同29)年以降は、「俺についてこい」というやり方をやめて、コーチ陣や選手とのコミュニケーションを重視するやり方に変えました。そこから日本シリーズ4連覇も成し遂げられましたから、大きく変えたことは正解だったと思います。

昔とは違う「Z世代」を、指導者はどう育成すべきか?

―「いまの若者は昔とは違う」という岩出さんのお話がありましたが、そのことは工藤さんもお感じになりますか?

工藤 感じますね。いまの若い子たちって、自分から意見を言わない子が多いんです。

岩出 プロ野球選手というと、それぞれが高校や大学で「お山の大将」的存在で、自信満々で自己主張が強そうな感じですけど、意外にそうでもないですか?

構成 本誌編集長 前原政之
撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 12月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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