『理念と経営』WEB記事
単発企画
2024年 11月号
「心理的安全性」に潜む 5つの誤解を解く

一般社団法人チーム力開発研究所理事 青島未佳 氏
近年、組織開発や人事の分野で「心理的安全性」という言葉が注目を集めているが、認知の拡大とともに誤った解釈も広がりつつあるという。チームを強くするためにはぜひ知っておきたいこの言葉。正しく理解し、実践につなげよう。
企業経営の攻めと守り どちらにも関わる概念だ
誰もが対人リスクを恐れることなく、自分が思っていることを率直に発言し合うことができる――。「心理的安全性」はチームや組織にそういう状態をもたらします。「心理的安全性」の高いチームでは、メンバーそれぞれが疎外されたり存在を軽視されたりすることはないと感じています。そういう安心感があるため、チームの目標達成のために知恵や意見を出し合う前向きな議論が実践でき、いい結果に到達できるようになります。
「心理的安全性」は、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン氏が1999(平成11)年に論文で取り上げ、さらにグーグルが2012(同24)年に「チームの生産性やパフォーマンスを高める最大の要因は心理的安全性である」との実験結果を公表したことから注目されるようになりました。
注目度の高まりに大きく影響しているのは時代の変化です。
かつては市場のニーズをいち早くとらえ、商品を世の中に送り出せば、その商品は見込んだ通りに売れていました。トップや経営陣といった社内のごく一部で意思決定し、スピーディーに対応することが企業に競争優位をもたらしてくれていたのです。
でも、それはすでに遠い過去のこと。いまやモノはそう簡単には売れなくなっています。例えばシャンプー。かつてシャンプーは1種類を家族全員で使っていました。今は家族一人ずつが自分専用のシャンプーを使うようになっています。ニーズの多様化です。こうした多様なニーズに対応する商品を生み出すには、みんなの知恵や意見を集めていく必要があるのです。
エドモンドソン氏も「市場の全てが読める、アップルのスティーブ・ジョブズのような経営者であればトップダウンもいいけれど、そうでなければみんなの意見を聞くべきだ」という趣旨のことを述べています。
それともう一つ、「物が言えない文化」が企業や組織にはあります。日本企業はそれがとりわけ強い。この、発言を封じ込める文化はパワーハラスメントや不正、不祥事の大きな要因になります。ビッグモーターや兵庫県知事のパワハラ問題の根底には「物が言えない文化」があったと言えるでしょう。
つまり現代の企業においては、ニーズの多様化に対応する「攻め」と、不正や不祥事を未然に防ぐ「守り」との両面から「心理的安全性」が求められているのです。
取材・文 中山秀樹
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 11月号「単発企画」から抜粋したものです。
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