『理念と経営』WEB記事

パーパスを実践に落とし込む、 リーダーシップを発揮せよ!

株式会社ポーラ代表取締役社長 及川美紀  氏 ✕  一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司  氏

内向きな組織風土の改革を指揮してきた及川美紀社長。パーパスの「自分ごと」化推進のための数々の仕組みづくりが功を奏し、ポーラにいま、新たな息吹が生まれ始めている。コロナ禍をも企業改革の推進力へと変えてきた「パーパス経営」のポイントを名和高司教授に解き明かしていただいた。

「2029年ビジョン」に込めた、社会とのつながり

名和 私はマスコミから「パーパス経営推進の旗頭」と見做されることも多いのですが、最近は「パーパス経営」が単なるお題目になっている企業が多いことを憂えています。

及川 そういう事例のことを、名和先生は「額縁パーパス」と命名されましたね。言い得て妙だなと思って。

名和 ええ。耳心地のいいパーパスを、額縁に入れて飾るように掲げただけで、プラクティス(実践)にまったく反映されていない例が目立ちます。それでは無意味です。
その点、ポーラはパーパスがきちんとプラクティスに落とし込まれている点が素晴らしい。パーパス経営の模範例として、いろんなところでお名前を挙げさせてもらっています。

及川 たいへん光栄です。

名和 及川さんがポーラ初の女性社長に就任されてから掲げられた、創業100年を目指しての「2029年ビジョン」―広義のパーパス―について、舞台裏をお話しください。

及川 私が社長になる少し前の一時期、ポーラは社員たちが内部視点に偏っていました。顧客満足度調査で、顧客のポーラに対する評価が下がってきていて、経営陣が危機感を抱いていたんです。そのうえ、私の社長就任直後にコロナ禍が襲ってきて、大打撃を受けました。全国約2万3000人(2023年12月末時点)の「ビューティーディレクター」(ポーラショップの美容部員。旧呼称は「ポーラレディ」)による対面販売が生命線なのに、対面が難しくなったからです。

その危機を乗り越えるためもあって、社員たちと話し合って決めたのが、「We Care More. 世界を変える、心づかいを。」というスローガンや、「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」というビジョンなどでした。

名和 「内部視点に偏っていた」とおっしゃるのは?

及川 うちの社員は総じて真面目で勤勉ですが、それが裏目に出て、「忠実な組織人」が増えていたんです。「指示待ち」「事なかれ主義」になって、自分から積極的に提案したりしない……そういう内向きな社員が増えたことも、顧客評価の低下につながっていました。だからこそ、「2029年ビジョン」では社会を主語にして、外向きに変わっていこうと考えたのです。

名和 コロナによって人々が「つながり」から引き離された時期に、あえて「つながり」を前面に出されたわけですね。

及川 はい。元々ポーラは、創業者の鈴木忍が愛妻の手荒れを治そうとハンドクリームを自作したことが原点です。「目の前の一人をケアする」ことから始まった会社を、もっと外に向けて、「社会をケアする」「地球をケアする」という方向に広げていきたい―「We Care More.」にはそんな思いが込められています。

名和 内向きになっていた社員さんを変えるための施策だと思いますが、「尖れ、つながれ」というスローガンを21(令和3)年に打ち出されましたね。あれはどういういきさつで?

及川 コロナ禍にどう対応していくべきか、社員からもどんどん提案が出てくることを期待していたんですが、実際に出てきた意見の大半は、「会社で細かく方針を決めてほしい」という受動的なものだったんです。出勤基準、リモートワークにする基準などを細かく決めて、ルールにまとめてほしい、みたいな……。

名和 指示待ち族になっていることがコロナ禍で露呈した、と。

及川 ええ。私は大枠のガイドラインだけ会社で決めて、あとは個々人が臨機応変に行動すればいいと思っていたんです。でも、そうではなかった。会社が出勤を命じればコロナが怖くても出勤するし、「出勤するな」と命じれば、出勤したくてもしないだろう……そう思わせる人が多数派だったのです。

パーパスを「自分ごと」化する仕組みづくりの秘訣

及川 そこで私は、「自分で考えて行動する社員に変わってほしい」と切実に思って、社員の業績評価制度の一部として「中長期変革目標」という仕組みを始めました。3年というスパンで「あなたはポーラをどう変えていきたいですか? そのためにどんな行動をしますか?」を問い、目標の進捗を半年ごとに報告してもらうものです。社員の目標管理の25%、つまり4分の1を、この仕組みによって評価することにしました。

構成 本誌編集長 前原政之
撮影 中村ノブオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 11月号「巻頭対談」から抜粋したものです。

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