『理念と経営』WEB記事

あらためて問う―― 「経営」とは何か? 高度1.5mと1万mの視点から

慶應義塾大学商学部准教授 岩尾俊兵 氏

成功者のマネは難しい。競争に明け暮れるのはむなしい。利益を優先すれば人を守れず、人を守れば利益が失われる。そんな悩みの中でふと思う。「経営」ってなんだろう? 経営学研究者による書籍としては異例のベストセラーとなっている『世界は経営でできている』(講談社)の著者・岩尾俊兵氏に聞いてみた。

「経営」とは・・・人生の役に立つ身近な存在

「経営理論は実践から離れていて理解しにくい」と、よく聞きます。ベンチャー企業の成功物語や衰退企業の中興の祖のストーリーなども「学ぶべき点は多いんだけど、どこか他所事ごとのよう」と感じる方も少なくないことでしょう。

日本には340万近くの企業が存在し、同じ数だけ法的な意味での「経営者」がいます。就業者数6700万人余りに対して、経営者は5%程度に過ぎず、大多数の人にとって特別な存在です。起業する人は年間20万人程度で、その他は親族の跡継ぎや従業員の昇格によって経営者になります。

また、上場企業は4000社もありません。全体のわずか0.1%の企業の中でもほんの一握りの成功物語が、実感とかけ離れているというのはもっともです。まして、経営学や経営理論は、応用が難しい机上の空論と捉えられがちです。

ところが、「経営」は、人生のさまざまな局面で大いに役立ちます。恋愛や健康、夫婦関係、老後設計などなど、人生の大問題も「経営」が解決の方向性を示してくれるものです。

近著『世界は経営でできている』では、「経営」がごく身近な営みであり、人生は経営による課題解決の現場の一つであることを示しました。人生は、経営修業の場になるのです。

「経営」につながる学びは、至る所にあります。誰もが人生という経営の現場を持っているのですから、お互いに学び合うことが多いはずです。たとえば、いつも手早く仕事を済ませていくエンジニアがいるとしましょう。そのスピードと品質は、たまたま実現できるものではなく、なにか理由があることでしょう。独自の手順や工夫された道具などが見つかるかもしれません。

こうした経営の見方は、日常の目線、言うなれば高度1.5mの視点からのものです。一方、経営学は、多様な企業の実例を参照し、一般化、抽象化して理論を導き出します。広く企業の実態を観察し、さながら高度1万mの視点から傾向と対策を探求した成果を、もう一度高度1.5mに戻す往復運動が経営学の特徴です。

「経営」は・・・「奪い合い」から「つくり合い」へ

「経営って、しょせんお金儲けでしょ?」といった見方も、多くの人々を経営から遠ざけている原因のひとつでしょう。先人の言葉を借りて答えるなら「たとえ天使が経営者であっても、利益は考えざるを得ない」です。

「世の中、お金じゃない」なんて、きれいごとに過ぎます。とはいえ、利益だけを優先するのは目的と手段の取り違えにほかなりません。お金儲けは目的ではなく手段であり、お金しか考えない経営は失敗のもとです。

取材・構成 米田真理子
撮影   編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 10月号「単発企画」から抜粋したものです。

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