『理念と経営』WEB記事

顧客を“ファン”にする綿密な接点戦略

株式会社トラムスコープ 代表取締役社長 加藤敦揮 氏

ギネス記録を2度樹立して大きな反響を呼び、今日まで根強い人気を博すパン屋がある。ただ、話題性だけが人気の理由ではない。あらゆる角度から顧客を満足させる店づくりで、愛されているのだ。

開店以来、成長を続ける異色のパン屋

最も売り上げの多い店舗では、4500万円の月商を誇る「パンのトラ」。愛知県内で6店舗を展開するローカルチェーンで、年商は全店舗合わせて21億円を超える。

同社を運営するトラムスコープ創業者の加藤敦揮さんは2011(平成23)年、愛知県安城市に1号店をオープンして以来、異色の戦略で「パンのトラ」を成長させてきた。

「普通のパン屋さんがやりそうなことをやっても埋もれてしまうので、誰もやらなそうなことをやるというのが僕のテーマです」

1号店は、その規模から桁違いだ。建物自体が100坪、駐車場を含めると約900坪で、開店するのに1億5000万円を投資した。本当にこの規模が適切なのか自信が持てず、「怖かった」と振り返るが、開店初月から月商3000万円を超え、今ではひと月で4500万円分のパンを売る。

1号店の開店から13年、今でも各店舗には毎日大勢の顧客が詰めかける。何がそこまで顧客の心を捉えているのだろうか?

顧客の満足感を「倍増」させる仕掛け

加藤さんが最も重視しているのは、「顧客体験価値(CX)」だ。顧客を喜ばせたり、買い物の利便性を高めたりしながら、売り上げにも直結するような取り組みがいくつもある。

例えば、どの店舗でも開店の1週間前からパンの試作「テストベイク」を行う。そのパンを、近隣の住民に無料で配る。当然、住民に喜ばれる上に試食の機会になるため、単にチラシを配るよりも強力な宣伝効果を伴う。

店内の入り口には、1個100円で購入できる手土産用の化粧箱「パンBOX」が置かれている。顧客にとっては、お気に入りのパン屋で誰かに差し入れするパンを買えるというメリットがあり、“パンのお土産”という新たな需要を掘り起こした。また、店内にはスーパーなどにあるショッピングカートに似た、上下にトレーを載せることができる「パンカート」もある。たくさんのパンを買う顧客が安心して購入できるよう、導入した。これで「もう一個!」のニーズを喚起する。

そして、パンをたくさん買う人が多いと、今度は会計の待ち時間が気になってくる。そこで……



豊富な商品ラインアップは1軍・2軍・3軍に分類され、飽きがこない並びになるよう計算されている

取材・文 川内イオ


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 10月号「特集1」から抜粋したものです。

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