『理念と経営』WEB記事
巻頭対談
2024年 10月号
安住から脱却し、変革の力で世界へ

亀田製菓株式会社 代表取締役会長CEO ジュネジャ・レカ・ラジュ 氏 ✕ 株式会社シナ・コーポレーション代表取締役 遠藤 功 氏
国内米菓のリーディングカンパニーが、グローバル化を加速させるべく大改革を行っている。陣頭指揮を執るのは、研究者としての顔も併せ持つジュネジャ・レカ・ラジュ会長。異色の経営者が描く「グローバル・ナンバーワン」へのロードマップとはー。
不思議な運命に導かれ、研究者から経営者へ転身
遠藤 ジュネジャさんがインドから来日されたのは1984(昭和59)年ですから、今年でちょうど40年ですね。こんなに日本に長くいるとは思わなかったのではないですか?
ジュネジャ まったく思わなかったですし、そもそも経営者になること自体、予想もしていなかったですね。
遠藤 元々は研究者として来日されたのですものね。
ジュネジャ はい。多くのインド人は、欧米など英語が公用語の国を留学先に選びます。でも、私が研究していた発酵・微生物学の分野では、当時大阪大学に世界トップクラスの先生がいたので、阪大を選びました。
遠藤 留学以前から、日本という国はお好きでしたか?
ジュネジャ 憧れの国でした。私が若いころは「メイド・イン・ジャパン」の製品が世界を席巻していましたから。インド人にとっても、ソニーのテレビ、セイコーの時計、キヤノンのカメラなどを買うことはステータスでした。
遠藤 研究者から経営者に転身されたのは、何かきっかけが?
ジュネジャ 最初に就職したのが太陽化学(鶏卵加工品など、食品素材の開発・製造をする企業)で、研究者としての入社でした。当時の社長から「世の中にないものを作ってほしい」と言われて、寝食を忘れて研究に取り組みました。普通、研究者は論文を書いて特許を取るところまでしかやりません。でも私は、自分が生み出した素材をメーカーに売り込んで、商品化するところまでやりたかったんです。
遠藤 それで、研究者なのにマーケティングも営業もやったわけですね。
ジュネジャ はい。しかも、売り込んだあとには、生産のために海外に工場を造ることまでやりました。そういう積み重ねをしていくうちに、「お前が経営もやれ」と言われて、いつの間にか研究者から経営者になっていたんです。
遠藤 ジュネジャさんは元々、高いアントレプレナーシップ(起業家精神)を持たれていたのですね。
ジュネジャ ええ。考えてみれば、私の親も一族も、みんな自分の会社をつくって生計を立てていましたから。経営者の血筋だったと言えるかもしれません。
ただ、経営するにしても、まさか日本の会社、それも外資系企業ではなく、伝統的な日本の老舗のCEOを自分がやるなんて、夢にも思わなかったですよ。デスティニー(運命)ですね。私は「一期 一会」という日本語が好きで、いろんな人との出会いに導かれて自分がいまここにいると感じています。とくに大きかったのは、亀田製菓の田中通泰元会長(現・特別顧問)との出会いでした。
遠藤 亀田製菓という会社については、元々ご存じでしたか?
ジュネジャ もちろんです。それどころか、私は入社する前から「亀田の柿の種」の大ファンでした(笑)。おいしいし、安いし、インドに帰るたびにたくさん買っていって、手軽な日本土産にしていたくらいです。ベジタリアン(菜食主義者)でも食べられるから誰にでも喜ばれます。
遠藤 そのジュネジャさんが、亀田製菓のCEOになって、「柿の種」をインド向けにローカライズした「KARI KARI」を売っておられる……まさに不思議なデスティニーですね。
「無限のポテンシャル」を引き出すことが私の使命です
遠藤 2020(令和2)年にインド出身のジュネジャさんを経営陣に迎え入れたのは、グローバル化を本格的に始めるという、田中元会長の覚悟の表れだったと思います。ジュネジャさんはそれに応えて、どのようにグローバル化を推進してこられたのでしょう?
ジュネジャ 私は入社するにあたって、改めて亀田製菓について調べました。すると、それまで思っていた以上にすごい会社だとわかったのです。米菓の国内シェア30%以上を占めているとか、多くの人気商品を持っているということ以上に、開発力・技術力がすごい。世界で通用するイノベーションの種が、社内にたくさん転がっています。でも、それが世界に向けて生かされていないと感じました。
遠藤 亀田製菓は1990年代初頭から海外展開を始めていますから、すでに三十数年の蓄積があるわけですが、ジュネジャさんから見るとグローバル化はまだ不十分だと……?
ジュネジャ ええ。うちはアメリカに3カ所グループ会社がありますし、ベトナム、カンボジア、インド、タイ、中国にそれぞれ関連会社があります。でも、それらが日本の本社と十分つながっていなくて、点と点のままだったのです。海外売上は連結売上では全体の1割程度、持分法適用会社を含めたグループ全体では3割程度で、「海外でも売っている国内企業」に過ぎませんでした。
遠藤 ジュネジャさんは、そこを変えて亀田製菓を真のグローバル企業にすることを目指しておられるわけですね。
ジュネジャ 日本の1億2000万人を相手に売るだけでは、もったいない。世界の80億人に向けて亀田製菓の商品を売っていくべきなのです。亀田製菓には世界に売れるポテンシャル(潜在能力)がある。その力を最大限に引き出すことが、私の使命だと考えています。
遠藤 「ニッチな分野でいいから、グローバル・ナンバーワンを目指す」ということも打ち出されています。
ジュネジャ はい。というのも、亀田製菓にはネスレやダノンのような、幅広い分野に手を広げるグローバル・フード・カンパニーになれるほどのリソースはないからです。それでも、亀田製菓の「コア・コンピタンス」(中核となる能力)であるお米という素材に的を絞ってグローバル化するなら、その分野で世界ナンバーワンになることは十分に可能だと思うのです。
遠藤 そのことを、「Rice Innovation Company」というビジョンとして掲げておられますね。
ジュネジャ ええ。私がCEOになってまずやったことは、理念の再構築でした。創業以来の歴史を振り返って、亀田製菓という会社の存在意義とは何かを改めて考えて、パーパス、ビジョン、バリューを新たに掲げたのです。私は、理念は企業経営にとって死活的に重要だと考えています。
培ってきた自社の技術を健康と環境への貢献に生かせ
遠藤 バリューが「Kameda,s Craftsmanship」で、パーパスが「BetterFor You」ですね。それぞれに込めた思いを教えてください。
ジュネジャ 「クラフトマンシップ」とは「職人技」のことですね。「亀田の強みはものづくりの技術だ」という矜持を込めています。
撮影 中村ノブオ
構成 本誌編集長 前原政之
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 10月号「巻頭対談」から抜粋したものです。
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