『理念と経営』WEB記事
特集1
2024年 9月号
「つながり」が新たな商品と好循環を生み出す

金精軒製菓株式会社 代表取締役 小野光一 氏
旧甲州街道沿いの台ヶ原宿。この地で、ひときわ歴史を感じさせる建物が金精軒製菓だ。地域愛にあふれた4代目の小野さんが進める取り組みとは。
流通の「出口」を持つ地元企業の役割
山梨県の銘菓「信玄餅」や「生信玄餅」を製造販売する金精軒製菓は、北杜市で120年続く老舗の企業だ。なかでも「水信玄餅」は発売当初からSNSなどで大きな話題を呼び、開店前から県外客を中心に店舗の前に長い行列ができるほどの反響を見せた。
そんな同社には地域とのつながりを意識してきた歴史がある。その一つが、米やフルーツなど製菓の原料の約8割に、地元産の素材を使っていることだ。例えば、お土産として定番商品であり続けている生信玄餅は、山梨県産の梨北米を使用。地元農家の規格外品を加工したスイートポテト「ほくときらり」や、日本酒「七賢」の酒粕を使う「大吟醸粕てら」も地域の生産者などとの連携のなかで生み出された商品だ。
社長である小野光一さんは語る。
「地元企業として地域の農業を買い支えることによって、維持していきたいというのが第一の目的です。自社で農業法人をつくり、農作物を生産する製菓メーカーもあります。ですが、私たちは商品というマーケットの『出口』を持つ地元企業だからこそ、入り口である地元の生産者の作物を積極的に使いたいと考えています。そのなかで、地域の田んぼを守っていきたいんです」
ここで興味深いのは、「地元産の素材にこだわることが、地域の農業の『質』を維持することにもつながっている」と小野さんは続けることだ。
例えば、黒蜜とともに信玄餅にかけるきな粉。国が減反政策を取り始めた1970年代、田んぼを水田から畑に変えた農家の作る大豆には、県外産のものと比べて品質に課題があった時期もあるという。
しかしそんな時期も、同社では大豆を一粒ずつ質の良いものだけに選り分ける作業を地道に繰り返し、北杜市産のものを使うことにこだわり続けた。
「すると、私たちが大豆を使い続けることによって、北杜市の農家さんの意識も少しずつ変わっていったんです。最初の頃は藁くずなどが交ざっていた大豆の品質が良くなっていったのです。やはり農家さんも、自分たちの作った農作物が誰に使われ、どんな商品になっているかがわかってくると、作り方が丁寧になっていくんですね。その意味でも地元の企業が地元の農作物を使い続けることは、地域の農業そのものの質の向上にもつながっているのだと思います」
人気の秘訣は背景のストーリー
なかでも前述のスイートポテト「ほくときらり」は、地域と同社との「つながり」の深さがよくわかる商品だ。
「ほくときらり」の開発は、地元のサツマイモ農家が市場に出せない規格外品を、同社で活用できないかと考えたことがきっかけだった。
宿場町の面影を感じさせる台ヶ原金精軒。山梨の銘酒「七賢」の蔵元とはご近所同士だ
取材・文 稲泉 連
写真提供 金精軒製菓株式会社
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 9月号「特集1」から抜粋したものです。
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