『理念と経営』WEB記事

手塩にかけて育てた店を 次につなぎたい一心で

株式会社アキダイ 代表取締役 秋葉弘道 氏

「さあ、いらっしゃい!」―人気スーパー・アキダイで、今日も威勢よく売り場を盛り上げる秋葉社長。数多の買収提案にも応じる必要はないというかつての考えを翻し、OICグループの一員になる選択をした理由とは。

М&Aを決意しても譲れなかったもの

「あとひと月でアキダイを手放す。寂しくて仕方なかったですね。誰にも言いませんでしたが」

3月1日、食品スーパーチェーン「ロピア」等を展開するOICグループによる買収発表を前に、秋葉社長が抱いた偽らざる心境だ。

“日本一メディアに登場する食品スーパー”といわれるアキダイは、秋葉社長が23歳で開店した。以来、手塩にかけて地域で愛されるお店に育ててきた。

品質・価格に一切妥協せず、新鮮な青果を提供する。明快な経営方針を実現する苦労は、並大抵ではなかった。仕入先の確保と交渉、販売先の開拓、商品陳列や店頭での接客、どれも秋葉社長自身が先頭に立つ。

休日に家族をレジャーに連れ出しても、自身は仕入れの打ち合わせ電話にかかりきり。「パパと一緒に楽しみたかった」という娘の言葉に涙をこらえたこともあった。

〈人より早くリタイアして、家族への不義理を埋め合わせよう〉

激務に耐えられたのは、そんな思いを秘めていたからだ。しかし、親族から後継者は現れない。個人保証を従業員に背負わせるのも気が重い。若いスタッフから「社長がいなくなったらアキダイはどうなるのか」と不安が漏れるようにもなった。

〈以前からよく誘われるM&Aを、本格的に検討すべきかもしれない〉

ついにそう決めると、猛烈に勉強した。買い手に求められるのはどういう企業か。企業価値をどう捉えるのか。

「未知の世界だけに、まさにスポンジのようにあらゆる知識を吸収しました」

その後も、買収提案は引きも切らない。仕入れルートが確立し、圧倒的な知名度で優良客を抱えるアキダイは、拡大・成長路線をとるスーパーマーケットチェーンにとって魅力的だ。

「店舗拡大の足がかりのためだけにアキダイを使ってほしくはない。アキダイらしさを維持し、従業員を守り続けることが相手先に求める最低条件でした」

そのままのアキダイでグループに貢献する

やがて、首都圏進出を図るチェーンと本格的に交渉を始めた。しかし、大企業だからか意思決定がスピーディーとは言えず、双方同意したはずの事項が巻き直されることもある。次第に、提示した最低条件が守られるかすら不安になっていった。

取材・文 米田真理子
撮影   編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 9月号「特集2」から抜粋したものです。

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