『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2024年 9月号
革新と共につなぐ、「小岩井らしさ」のバトン

小岩井農牧株式会社 代表取締役社長 辰巳俊之 氏
岩手山麓にまたがる日本最大級の民間総合農場・小岩井農場。運営する小岩井農牧(東京都千代田区)の辰巳社長が重視する「らしさ」と、社内にもたらす革新とは。
プロパーだからこそ現場を知り尽くせた
日本で最も知られている牧場の1つ、小岩井農場の開設は、1891(明治24)年。当時の鉄道庁長官・井上勝が広大な原野の開拓を思い立ち、3000ヘクタール(東京ドーム640個分)にも及ぶ現在の小岩井農場の礎となった。
その志は、鉄道敷設で潰してきた各地の〝美田良圃〟(美しい田と良い畑)に代わる農場をつくりたいというものだった。以来133年間、小岩井農場の存在は日本に酪農を定着させるうえで大きな貢献を続けてきた。
――辰巳さんは小岩井農牧で初めてのプロパー社長だそうですね。
辰巳 そうなんです。最初、私自身は自覚がなかったのですが、OBの皆さんから言われて「あっ、そうか!」と気づきました。
――ご出身は横浜です。酪農・牧畜に興味を持たれたのは?
辰巳 小学校のとき、庭にトウモロコシの種をまいて実がなったことの面白さが忘れられず「農業をやりたい」と思ったのが最初です。牛との出合いは大学1年の夏の北海道での酪農実習でした。牛のあまりのかわいさに「自分がやりたいのはこれだ!」と思いました。
3年のときには1年休学して、アメリカのウィスコンシン州の牧場に働きに行きました。そこの合理的で科学的な飼育方法に刺激を受けました。
――入社は1981(昭和56)年だと聞いています。
辰巳 はい。岩手山の雄大さに感動して、ここを選びました。
――当時はどれくらいの規模だったのですか。
辰巳 いまは搾乳している乳牛が900頭、肉用牛が1050頭、子牛が650頭、トータルで2600頭ですが、その3分の1の規模感だったと思います。
――ところで、新人研修ではある“爆弾発言”をされたとか……。
辰巳 若気の至りです。「ここはたるみ過ぎている会社だ」と。
――なぜそう思われたのです?
辰巳 アメリカかぶれでしたので、「合理的な発想がなく、意味のないことをやっている」などと思ってしまったんです。
――意味のないこと、とは?
辰巳 たとえば牛を飼うための「飼料設計」という計算があるんですが、根拠が不明確なままに何の疑問もなくやっていたり……。
――“爆弾発言”には根拠があったわけですね。
辰巳 だけど「たるんでいる」は言い過ぎだったと反省しています。「もう帰ってくるな」とすぐに岩手県北部の葛巻町の畜産公社に2年間出向になりました。
――それは大変でしたね。そんななか、たたき上げで社長に就任されましたが、プロパー社長の強みは何だとお思いですか。
辰巳 私は酪農を8年、その後は営業や輸入業務、商品開発などの部署を経験し、とくに経営企画に20年以上おりました。弊社のプロフィットの部分をほぼ理解できているので、そこは自分の強みかなと思います。あとは現場を大事に思っているのもプロパーだからだと考えています。
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取材・文 中之町新
撮影 池上勇人
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 9月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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