『理念と経営』WEB記事

元トラックドライバーが考える、「本当の2024年問題」

ライター 橋本愛喜 氏

物流危機の分岐点として「2024年問題」が注目される昨今。このままでは数年後、輸送需要の約35%が運ばれなくなるという。問題の本質について、元トラックドライバーのライター、橋本愛喜さんに聞いた。

企業間輸送の限界が目前に迫っている

宅配便が従来通り自宅に運ばれなくなる――。近年、メディアで取り上げられる「2024年問題」は、多くが「宅配の問題」として語られています。ところが、2024年問題で一番影響を受けるのは「企業間輸送(BtoB輸送)」を担うトラックドライバーです。

一般の人は「宅配便が届かない問題じゃないなら、消費者には関係ない」となるかもしれません。しかし宅配便の荷物は、全国で運ばれる荷物のわずか7%。残りの93%は企業間での輸送が占めています。これを念頭に置くと、宅配便より深刻な問題が浮かびあがってきます。

たとえると、2024年問題は、注文したレトルトカレー(食品)が宅配で届かなくなる問題ではなく、製品が市場に出る前に影響を受ける問題。食品工場へのジャガイモやニンジン(原材料)の輸送が滞れば、レトルトカレーそのものが作れない。そうなると、スーパーの棚に並べることさえできなくなります。

2024年問題の真の影響は、全産業への波及と社会インフラである物流システムの崩壊です。それ故に企業だけでなく、一般消費者も含めた幅広い層での理解と協力が求められているのです。

かつてトラックドライバーは「3年走れば家が建つ」と言われるほどブルーカラーの花形職業でした。過酷でしたが、走った分だけ稼げました。ところが、1990年代以降に物流産業の規制緩和がはじまると、業界へ新規参入事業者が押し寄せ、過当競争が激化。輸送料も低下しました。運送業者の増加に加え、多重下請け構造ができあがり、自社で運べない荷物を同業に流す「水屋」(仲介業者)が間に入り、ピンハネするようになります。

ドライバーも必死になり、顧客を逃さないよう「無料の付帯サービス」まで行うようになりました。たとえば、運んだ商品の検品や仕分け、スーパーの陳列など、本来、ドライバーの仕事ではない仕事を、です。

過剰な荷主至上主義が、ドライバーのなり手を減らす

そこに追い打ちをかけたのが、2024年問題です。これまでドライバーは、拘束時間と休憩時間で働ける時間が決まっていて、残業時間の概念がありませんでした。しかし、働き方改革関連法が施行され、2024(令和6)年4月からトラックドライバーの残業が年間960時間までに変更になりました。「労働時間が減る」ということは「稼げなくなる」に直結します。彼らは歩合給なので、労働時間に上限があると賃金が減少します。

「長く走って稼ぎたい」と、この業界に入ってきたのに「ルールやしがらみだらけで稼げない」という声も出ています。中には空いた時間を運転代行業、倉庫で荷分け作業、UberEATSといった副業にあてて稼ぐ人も出てきました。副業による疲労蓄積や睡眠不足は、安全面でも非常に心配です。さらに、以前からトラックドライバーたちが頭を悩ませているのが「荷待ち」という待機時間の問題。荷物の受け取りや配達の際、荷主の方針で、予定の時間に到着してもすぐに荷積み・荷降ろしを行えないことがあって、無駄な待機時間が発生します。結局は無料の付帯サービスも長時間の荷待ちも「荷主至上主義」が商習慣化しているのが原因です。

取材・文/篠原克周
写真提供/本人


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 8月号「単発企画」から抜粋したものです。

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