『理念と経営』WEB記事

すべての施策は、 理念の実現につながる

HTC株式会社 代表取締役 臼井宏太郎 氏

デイサービス事業所の49%は赤字に陥っているともいわれるなか、HTC(札幌市北区)は創業以来増収と黒字を達成してきた。臼井宏太郎社長が実践する「理念経営」の核心

介護事業の課題は唯一、「働く人」だけ

HTCは北海道札幌市を中心に介護事業を展開する会社だ。主力事業はデイサービス(通所介護)で、「我が家」の名称がつく事業所を7カ所に展開している。他に看護小規模多機能型居宅介護、訪問介護ステーション、居宅介護支援事業所をそれぞれ1カ所ずつ有し、計10拠点体制で地域の介護ニーズに応えている。

臼井宏太郎社長は福岡にある外資系ホテルで飲食業のマネジメントを学んだのち、2002(平成14)年に東京の上場コンサルティング会社に転じ、飲食業のフランチャイズチェーン本部および加盟企業のコンサルティング業務に携わり、多店舗展開の組織づくりと人材育成を支援した。07(同19)年に経営コンサルタントとして独立。最初のクライアントが北海道の介護事業者だったことから介護業界に関わるようになった。

介護業界には「受け身の経営の会社が多く目についた」と臼井社長は振り返る。

介護事業の売り上げの9割は介護報酬として介護保険からもたらされる。00(同12)年の介護保険制度ができるまでは、「老人福祉制度」は「措置制度」と呼ばれて、介護を要する高齢者は行政が介護施設に割り振っており、いまのように利用者が自らの意思で施設を選べるようにはなっていなかった。

そのため事業者の軸足は利用者やスタッフよりも行政に向きがちだった。施設が飽和状況になる前だったこともあって旧態依然とした運営が行われていた。「介護事業者は市場に淘汰されないのです」

デイサービスでは利用者を自宅まで送迎するので立地は問われない。価格も介護報酬はほぼ全国一律に定まっているし需要の衰退もない。事業の成否に大きくかかわる「立地」「価格」「流行」の影響を介護事業は受けないのだ。

「問われるのは“人”だけ。働く人のマネジメントに集中すればいいのです」

飲食業界で人材育成のコンサルティングを行ってきた臼井社長にすれば、自信を持って臨める課題だった。

「自分の経験を生かして利用者様とご家族をはじめ、スタッフも取引業者さんも、みんなが笑顔で幸せになれる、そんな会社をつくろう」との思いから09(同21)年にHTCを創業したのだった。

負の連鎖を断ち切るための「理念の浸透」

創業にあたって臼井社長は、まず「理念」を策定した。「我が家に関わる全ての人を幸せにすること」というものだ。理念を根底に据えて事業を運営していくことにしたのだ。

「経営の基本は業種業態にかかわらず理念だととらえていましたから、働く人たちの目標になり、軸となる理念をまず打ち立てたのです」

臼井社長の目に映る介護業界は「いわば負の連鎖に陥っていた」と言う。

「事業の立ち上げ前に複数の介護事業所を見て回ったのですが、どこでも職員は疲弊していて上司や同僚、会社への不満ばかり。生き生きした表情の職員はほとんど見られませんでした。事業所の多くは赤字経営に苦しんでいました。利用者も明るい気分になどなれず暗い雰囲気が漂っていました」

介護の仕事は精神的にも肉体的にも負担が大きいが、職員の処遇はそれに見合うものになっておらず、モチベーションを高めにくい状況にあった。

「他のどの業界にも負けない、大きなやりがいのある尊い仕事」ととらえていた臼井社長は、仕事のやりがいを見失いがちなスタッフに理念を浸透させれば、「負の連鎖」を断ちきることができると判断したのだった。

取材・文 中山秀樹
写真提供 HTC株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 8月号「企業事例研究2」から抜粋したものです。

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