『理念と経営』WEB記事

ウィンウィンを実現する “お客様に育てていただく店”

ONODERA GROUP 「鮨 銀座おのでら」統括総料理長 坂上暁史 氏

人材の育成には時間がかかる。一方で若手は早く第一線に立ちたい。
今、どの業界でも抱えている人材育成のジレンマを、斬新な方法で解消につなげた企業がある。
ミシュラン獲得店を次々と輩出するONODERA GROUPだ。

長年にわたり温めてきた「構想」

名門すし店として知られる「銀座おのでら」などの和食店を、世界3カ国、18店展開している同社は、2022(令和4)年4月に新業態の店をオープンさせている。入社3年目からの若手が高級店の総本店と同じネタとシャリで握り、客単価約7000円と破格値で提供する立ち食いスタイルの「鮨 銀座おのでら 登龍門」だ。10年以上にわたって構想していたという坂上料理長が語る。

「すし職人を目指すとなれば、早くすしを握りたい。しかし、私も握れたのは5年目になってからでした。もっとかかった人もいます。それだけマスターしなければいけないことが多いというのも事実ですが、今の時代、長くは我慢できない。先が見えないと、どんどん辞めてしまうんです」

長時間労働が当たり前だったかつては、人数が少なくてもやっていけた。だが、労働時間を遵守するようになり、人手が足りなくなっていった。また、海外も含めて店舗展開を進めている同社にとって、職人の早期育成は待ったなしの状況だった。ベテランの退職も増えていた。

ヒントになったのは、札幌での修業時代の店で、月一度、行われていた「チャレンジデー」。価格を安価にし、若手の職人が握れる日があった。経験が積めるほか、力のある職人を見極める抜擢の場にもなっていた。

「実際に握らせてもらえる、うれしい場になるわけですが、実は大きな学びの場にもなるんです。先輩がいくら言ってもわからなかったことが、お客様から直接、学べたりする。自分の力の足りなさ加減も改めてわかる。意欲の高い若手に、こういう場をつくれたらいいな、と思っていたんです」

そして新型コロナウイルスが席巻する中、「鮨 銀座おのでら」総本店から徒歩30秒の場所に、絶好の空き店舗が出た。地下と地上の2フロア物件。仕込みを行うセントラルキッチンを地下につくれる。ここなら、何か困ったことが起きたとしても、総本店から応援も送り込める。1階の店舗は立ち食い店にして価格を抑え、若手をお客様に育てていただく。こうして構想が実現した。



取材・文 上阪 徹
撮影 編集部


この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2024年 8月号「特集1」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。