『理念と経営』WEB記事

自由な発想と行動力が生み出す“新しい”ものづくり

株式会社キャステム 新規事業本部 新規事業部 部長 池田真一 氏

ここ20年で同業他社が4分の1にまで減少した精密鋳造部品メーカーが挑戦したのは、従来の部品製造とは異なる新規事業だった。配属された池田さんは、当初こそ戸惑ったものの、持ち前の情熱と自社の技術力を生かし、ユニークなヒット商品を次々に開発。驚きの行動力で自ら販路も開拓している。

課せられたのは第2、第3の柱を創出すること

――新規事業部に配属されたときの気持ちは?

池田 もう不安でいっぱいでした。2008(平成20)年に新卒で入社してから品質管理部門に8年間在籍し、仕事に自信を持ち始めた頃でした。新しい部署には決まった仕事がなく、戸惑いとともに、どうしてこんなところに来ちゃったんだろうと。

――池田さんたちには、どのようなミッションが課されていましたか。

池田 新規事業部は、キャステムの第2、第3の柱となる事業を創出するために社長直属で設立された組織です。主力事業の精密鋳造による部品製造は、30年ほど前は全国で100社程度が携わっていました。ところが今、同業他社は25社に満たない。当社の売り上げは順調に推移していますが、この先がどうなるかはわかりません。早いうちから、稼げる新事業をつくっていこうという一環で、自社製品を企画、製造、販売する部門として16(同28)年春に新設されました。

――最初に形になった製品は?

池田 17年、広島東洋カープの公式グッズです。ちょうど米国から黒田博樹投手が帰国、再入団したタイミングで、地元は大きく盛り上がりました。そこで黒田投手ら5人の手を型取りして、血管やしわまでも精密に再現した金属製の貯金箱を製作しました。ネットでの発売開始から、わずか1分で完売し、地元のテレビ各局に取材されて、大きな話題になりました。

――1分で完売ですか!

池田 はい。実績ができて、営業しやすくなりました。「自分たちでしっかり売って、売り上げを立てていったほうがいい」と、営業部門からのアドバイスもあって、飛び込み営業に励みました。当社のフィリピン工場の責任者が帰国したとき、冗談交じりの「ボクシングのパッキャオ選手の手型はどうだ」なんてことまで、実現してしまいました。

後に、選手などの歴史を残す「ヒストリーメーカー」としてシリーズ化し、国内外から依頼がやってくる商品に育ちました。

――マンガ、アニメの世界が現実のようになった製品群もありますね。

池田 マンガ『キン肉マン』の人気キャラクターを再現した鋼製の「ロビンマスク」は、作者のゆでたまご先生に直談判をして実現しました。1つ16万5000円(税込み)で、関係者からは「30体も売れれば御の字」と言われました。関西ローカルテレビの人気深夜番組に取り上げてもらったこともあり、すでに300体を超える売れ行きです。

新入社員とのアイデア出しから生まれたのが、『ポケットモンスター』のモンスターボールを模した虫かごです。あると面白いね、と話しているそばから、彼が3Dプリンターで試作して、実際に草むらに置いてみると、本当に絵になるんです。樹脂の射出成型は保有する機械でできるし、金型はお手のものです。「いけるぞ!」とばかりに、流通チェーン最大手に営業をかけ、全店に販路を確保できました。

現在は年間約10万個を製造、販売していて、地域の企業や障がい者就労支援事業所などに一部工程を委託しています。地域貢献にもつながりました。



ポケモンを捕まえるためのモンスターボールをかたどった「モンスターボール 虫かご」。姉妹商品の「マスターボール」「スーパーボール」版もある

取材・文 米田真理子
写真提供 株式会社キャステム


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 7月号「特集2」から抜粋したものです。

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