『理念と経営』WEB記事

大企業に勝つために 最適な場所で最高の商品をつくる

パナレーサー株式会社 代表取締役社長 大和竜一 氏

大企業の力を前に、劣勢に立たされた自転車タイヤメーカーを救ったのはあるニッチ商品だった。ニーズをよく見極めた、賢い戦いぶりが光るオンリーワン企業のリベンジを追う。

どんな道でも走れる “ニッチなタイヤ“をつくる

兵庫県丹波市に拠点を構える、日本で唯一の自転車タイヤ専業メーカー、パナレーサー。自転車店で丁稚奉公をした経験のあるパナソニックの創業者、松下幸之助が1952(昭和27)年に立ち上げたナショナルタイヤが前身だ。

パナソニックグループの一員として長く事業を続けてきたが、2015(平成27)年にパナソニックとの資本関係を解消。現在はレースなどに使用されるスポーツバイク用を中心に、電動自転車を含むシティー用など多品種のタイヤを作りながら、売り上げを伸ばしている。

同社が特に力を入れているのが、付加価値の高いスポーツバイク用だ。スポーツバイク用のタイヤは、主に3種類。舗装道路を走る「ロード」、舗装道路と未舗装路兼用の「グラベル」、オフロードを想定した「マウンテンバイク」がある。

このなかで同社が世界シェアトップを誇るのが、グラベルだ。全体の売り上げ約27億円(22年)のうち、およそ40%は海外への輸出で、その過半をグラベルが占める。社長の大和竜一さんによると、最近日本でも関心が高まってきたグラベルはアメリカで生まれたそうだ。

「アメリカの場合、舗装道路のすぐ横は砂利道や草原、砂地なんですよ。10年ほど前から、ロードバイクで舗装道路を走る人たちから、一本のタイヤでどちらの道も楽しみたいというニーズが生まれました。そこで、弊社がアメリカのユーザーとやり取りしながら開発して14(同26)年にリリースしたのが、「グラベルキング」という商品です。おのずからこの分野のパイオニアになり、現在もアメリカでは30%ほどのシェアがあります」

「先頭をひた走ること」それ自体が強み

なぜ、ほかのメーカーが手をつけていなかったグラベルタイヤの開発に舵を切ったのだろうか? 大和さんは「結果的にそうせざるを得なかった」と振り返る。

ロード用タイヤの分野では、ミシュランやコンチネンタルなど世界的なタイヤメーカーが競合になる。パナレーサーはかつて自転車の本場ヨーロッパで「三大レース」と呼ばれる「ツール・ド・フランス」「ジロ・デ・イタリア」「ブエルタ・ア・エスパーニャ」に参加するチームにタイヤを提供し、巨大資本と競っていた。しかし、資金力で勝る競合には太刀打ちできず、徐々にシェアを落としていった。

一方、マウンテンバイクは一時期、グローバルでブームになったものの、間もなく収束。市場規模も限定的になっていた。

スポーツバイク用のタイヤで稼ごうにも、先の道が見えない。暗中模索の時期だったからこそ、アメリカの自転車愛好家たちと二人三脚で新しいタイヤをつくるという挑戦が始まったのだ。

世界にユーザーが広がるロードタイヤを主軸にする大手にとっては当初、グラベルタイヤは取るに足らない市場規模だった。だから、パナレーサーはユーザーに伴走しながら、独占的に市場を開拓することができた。近年、ポテンシャルに気づいた大手もグラベルタイヤを投入し始めているが、「グラベルキング」の知名度の高さは圧倒的で、先行者利益は揺るがない。

「ユーザーの声を聞いて、こういうタイヤがいいよね、ああいうタイヤもいいよねと作り始めて、いまは60種類以上あります。そこは、最近参入した他のメーカーさんとだいぶ距離があるんじゃないでしょうか。計画したわけでなく、先頭を走って試行錯誤しながらやってきたことがトップシェアにつながっているんです」

取材・文 川内 イオ
写真提供 パナレーサー株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 6月号「特集1」から抜粋したものです。

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