『理念と経営』WEB記事

全情報の共有が“自走組織”へのきっかけに

万松青果株式会社 代表取締役会長 中路和宏 氏

全情報の共有が“自走組織”へのきっかけに

大手スーパーの台頭などで苦戦を強いられている青果仲卸業。ところが、京都を拠点に高級レストランや高級料亭を得意先に持つ万松青果は、この10年で取引先を100店以上も増加させ、若い社員も増え、右肩上がりの成長を遂げている。この躍進の秘訣が、まさに任せる経営だ。

「『それ言おうと思ってたのに、もうやってくれてたの』『え、そこまでやってくれてたの』。そんな声をお客様からよくお聞きします。社員が自走してくれているんです」

こう語るのは、万松青果の中路和宏会長。1906(明治39)年創業の老舗の4代目だが、東京・築地で修業を終えて90(平成2)年に入社したときは、まったく違う雰囲気の会社だった。

「京都の人は案外、新しいことが好きなんです。当時の社長だった父が、売り上げによって給料が変わる成果主義を導入したんです」

そして入社の翌年、思わぬことが起こる。売り上げの6割を占めていた大口取引先を競合に奪われてしまったのだ。会社は倒産寸前の危機を迎える。生き残りのため、小口の取引先を増やす方針を掲げたが、社員は過去のやり方を変えようとはしなかった。

理論通りにやってみたが……

「いろんなことに挑みました。目標設定理論をベースに目標管理をしたこともあります。でも、中小企業のブルーワーカーの仕事には合わないということがわかりました」

そもそも社員は、どうしてもこの仕事がやりたくて入ってきたわけではない。社員を説得するのは無理だと思った。1つの転機になったのは、自分で会社のウェブサイトを作ったことだ。その目的は、社員の家族に、この仕事の価値を知ってもらうためだった。

「そうしたら、見知らぬ女性から電話がかかってきて、私の夫を勤めさせたい、と言われて。この方向は間違っていないと思いました」

「ありがとう」を含め、すべての情報を共有

目指していない仕事だったとしても、小さな幸せがあることには気づいていた。それは青果を納めた顧客に喜んでもらうこと。ありがとう、良かったよ、助かった・・・。それを大事にしようと考えた。こうして始めたのが、「喜んでもらえた週報」だ。

「もともと日報はあったんですが、書くのは大変だし、読むのもつまらない。だったら、お客様に喜んでもらえたエピソードを週に一度、書いてもらってみんなで共有しようと考えたんです」

社員の意識が少しずつ変化していく中、大きな転換点となったのが、売上高、利益率、顧客情報など経営情報を完全開示したことだ。今ではスマホでリアルタイムに見られる。

「紙ベースで出しても、誰も見ません。いつでもどこでもアクセスできるスマホだから見るんです。そして秘訣は過去20年の情報も出すこと。担当者別、品目別、いろんな角度から見られるようにしています」

自分の担当している取引先が、実は過去に今よりはるかに大きな取引をしていたことがわかったりする。そうなれば、かつての担当は新規の取引先を獲得してきたことに気づける。過去のデータを見ることで、自分が今やるべきことが見えてくるのだ。



取材・文 上阪 徹
写真提供 万松青果株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 5月号「特集2」から抜粋したものです。

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