『理念と経営』WEB記事

社員主導に舵を切り、「過去最高」を毎年更新

福田刃物工業株式会社 代表取締役社長 福田克則 氏

5代目社長に就任して10年。業界全体では市場が大きく縮小している中、福田刃物工業の年商はこの10年で3倍の30億円を突破した。その要因こそ社員に任せる経営だったと語るのは、同社の福田克則社長だ。

「コロナ禍の最中です。カリスマ経営、トップダウン経営なんてやっていたら、この10年の成長はなかったです。経営者主導が目立つ会社は、ピンチに弱い。わが社は社員が自走してくれたからこその好結果だと思っています」

士気が上がらないのは経営陣の問題

1896(明治29)年創業の工業用機械刃物メーカー。福田社長は高校3年、大学4年を過ごしたアメリカから帰国後、NECに5年勤務し、1997(平成9)年に入社した。

「当時の年商は約7億円。組織図もなければ、仕事の役割も曖昧。社員のモチベーションも高くはなかった。でもそれは、われわれ経営陣の問題だと捉えていました」

意識改革や役割分担の明確化、5S活動やISO取得、顧客分析や出荷システムづくりなどに挑んだが、業績はすぐには上向かなかった。転機の1つは2003(同15)年、同じ岐阜県内にある電気設備資材メーカーの未来工業の創業者、山田昭男氏との出会い。一代で東証一部上場企業に育てた名物経営者から、大きな気づきをもらった。

「中小企業の跡取りは勘違いしている。権限はあっても能力があるわけではない。それなのに、社員に命令ばかりして威張っている」

自身を振り返っても、その通りだった。営業が得意なわけではない。技術で勝負できるわけでもない。能力の部分は社員に任せたほうがきっとうまくいくはずだ。では、自分が持っている権限をどう使うべきか。それこそが、社員のモチベーションを高めることだと気づいた。

「社員がやる気になる、喜ぶことをするのが経営者の役割ではないか。給料は高いほうがいいし、休みも多いほうがいい。でも、それだけでは足りない。社員に仕事をどんどん任せて、モチベーションアップにつなげたいと思いました」

本格的に取り組みを進めたのは、リーマン・ショックで大きく年商がへこんだ08(同20)年からだ。相談は受けるし協力はするが、自身では営業にも製造にも口を出さなくなった。工場にも行かなくなった。採用も若い世代に任せるようになった。

「離れてみて改めて自分で思ったのは、『なんだ、役員でなくてもできる仕事だったんだ』ということでした。社員ができることまで、経営陣がやろうとしていたんです」

じわじわと業績が上向き、10(同22)年以降、過去最高を毎年、更新するようになった。13(同25)年には、社長に就任。任せる経営を一層強化していった。

「任せてしまうと、社長は働かないのか、と問われるのかと思いきや、違いました。むしろ自分たちに任せてくれるのはありがたい、と言われました」

となれば、社長の役割は社員満足をつくることだと捉えた。ところが、それも社員から「自分たちで考えさせてくれ」と言われた。実際、勤務時間や休日日数などの働き方は、社員主導で決めている。「誰かに命令されることなく、自分の意思で仕事が進められる。それこそが、最も自分の力が発揮できる働き方なんだと思います。任せて一番良かったのは、社員が常に自己分析し自走するようになったことですね」

取材・文 上阪 徹
写真提供 福田刃物工業株式会社


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 5月号「特集2」から抜粋したものです。

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