『理念と経営』WEB記事

テクノロジーの活用より先に、「会社の未来像」を社員に示せ!

培ってきた機械加工のデータをもとに、新たにソリューション事業を展開してきた山本金属製作所。下請けから脱却し、自社でマーケットを開拓するためにこだわってきた、山本憲吾代表の経営哲学とは―。

株式会社山本金属製作所 代表取締役社長 山本憲吾 氏

リーマン・ショックが
突き付けたもの

大阪市で金属部品の切削加工を行う山本金属製作所は、10年以上前から工場現場でのセンシングやデータ分析、AIの導入・研究開発に積極的に取り組んできた。現在ではその知見を「機械加工最適化支援サービス」(LAS)として外部に販売し、大手企業を中心に数多くの導入事例を持つ。近年では「ロボットシステムインテグレーション」事業も開始。

ICT(情報通信技術)やAIを活用することで、祖業である機械加工に加えて、新たな主力となるソリューション事業を生み出した企業として注目されている。

同社の2つの事業は次のようなものだ。前者では自社で開発した計測機器などを用い、工場ラインでのさまざまな機器や工具の状態のデータを集めて数値化。「リードタイムを短くしたい」「品質のばらつきを抑えたい」といった各導入先のニーズに合った生産性の向上や改善につなげている。それまでは現場の社員の知識や経験で行っていた改善を、AIによる分析も活用して可能としたものだ。

後者ではLASで培った技術をロボットに応用。製造から計測、梱包まで多くの作業をロボット1台で可能とした。中小企業において、人とロボットが協働して生産・ものづくりをする環境づくりにも一役買っている。

同社の山本憲吾代表が、従来の事業からの多角化を図ったきっかけは、2008(平成20)年のリーマン・ショックだったという。

「リーマン・ショックの前、弊社の業務は受託、請負の部品加工だけでした。しかし、受託の業務はお客様次第で安定しない宿命を抱えています。どれだけ優秀なサプライヤーになっても、自らマーケットをつくれない会社は今後、生き残れないのではないか。リーマン・ショックによる苦境は、その現実を私たちに突き付けました」

では、企業として「自立」を図るためには何をすべきか。その問いについて考える中で、山本代表が模索したのが工場のDX化だった。これまで社員の経験に頼っていた金属加工のさまざまな作業・改善を、センサーやカメラを使ってデータ化。社具の温度や振動、力の加えられ方などを多角的に数値化して「見える化」した。そして、その知見をもとに開発した計測機器を活用し、ソリューション事業として展開していくことを目指したわけだ。

「しかし、そうした要素技術の研究開発は、常にラインが動いている大阪の生産工場では行えませんでした。そこで岡山県に研究施設を造り、従来のものづくりとは異なる尺度で人財を育成することにしたんです」

優良顧客に出会うための「AI活用」

同社の岡山研究開発センターには、大阪の工場の熟練工を異動させて研究開発を行った。また、情報工学や統計工学を専門とする人財も中途採用し、研究開発に注力。金属の切削時の工具の熱や振動、負荷のかかり方を計測するセンサーなどを開発したことが、現在のソリューション事業の原点となった。

取材・文 稲泉 連
写真提供 株式会社山本金属製作所


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 5月号「特集1」から抜粋したものです。

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