『理念と経営』WEB記事

なぜ今、中小企業に経営理念が大切なのか?

株式会社BIOTOPE 代表 佐宗邦威 氏

会社における「経営理念」が果たす役割とは何か。その役割は今、どう変化しているのか――。『理念経営2.0』(ダイヤモンド社)の著者で、企業の理念策定・活用支援の豊富な実績を持つ佐宗さんに聞いた。

ますます深まる理念の「価値」

経営理念の必要性を中小企業の目線で考えると、1つは採用におけるメリットがあると考えられます。

今の時代は、安定した会社で働きたいという志向もある一方で意義のある仕事をしたいという意識も高まっています。特に20代から30代の若者は、給料が高くても生きがいにつながらない仕事よりも、給料が多少低くても生きがいにつながる仕事を選ぶ傾向性が強まっています。「どれだけ儲かるか」というよりも「それは“良い儲け”なのか」という新しい基準が入ってきているのです。

給与を大企業並みに上げることが難しい中小企業にとって優秀な人材を採用することは難しい課題ですが、優れた経営理念は、意義ある仕事を求める優秀な若者を採用できる力を秘めているのです。

星野リゾートの星野佳路社長にインタビューしたときにも同様の話を聞いたことがあります。軽井沢の温泉旅館の4代目だった星野社長ですが、優秀な人材を採用しようとしてもなかなか難しい状況のなか、「日本の観光をヤバくする」という大胆なミッションを掲げたことが、優秀な人材を惹きつけた1つのきっかけになったのではないかというのです。いわば、リソースが何もない中小企業がただで若い人材を惹きつけられるものが経営理念なのです。

また、経営理念が明確ではない会社は、自分たちの会社にとって何が価値なのかよくわからないので、それぞれの社員がそれぞれの解釈でそれなりの良いことをしようとする傾向が強まります。そうすると、多くの人が「あの人は何を考えているのか」気になり、無統制状態となり、結果としてコミュニケーションコストが高くなります。

経営理念がないということは、その会社の土台がないということ。土台がない状態で議論を続けても「泥の上に家を建てる」ようなもので、議論自体が噛み合わず積み上げていくことができません。結果として、新しいチャレンジも生まれにくくなります。理念をしっかり定め掲げることは、「地固め」ができるということ。その上にいろんな議論や戦略を乗せていくことができるのです。

なぜ、明文化することが大切なのか?

経営理念は明文化することが大切です。言語化するということは、「魂入れ」に近いのではないかと思います。単に言葉を決めるのではなく、あえてこの言葉にするのだという強い意思を持ちながら儀式として言語化するプロセスのなかで「魂」が入り、そのことで経営に「重心」が宿るのではないかと思うのです。それは、単なる額縁に入った軽いものではありません。

経営理念の在りようは、時代とともに変化してきました。昔の経営理念は、どちらかといえば、創業者の経営観を言語化したものが多かったと思います。特に、中小企業の場合、それは「家訓」に近いものでした。ところが、今は、家訓を掲げているだけではダメで、自分たちの会社が社会にとってどういう意義を持つのかを明確にし、それを社外に対して伝えていくことが重要になっているのです。

取材・文 長野 修
写真提供 株式会社BIOTOPE


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 4月号「特集1」から抜粋したものです。

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