『理念と経営』WEB記事

鳥取発「週1副社長」プロジェクトが地方の中小企業を変える!

鳥取県立鳥取ハローワーク
とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点 戦略マネージャー 松井太郎 氏

気軽にプロフェッショナルに仕事を依頼できるスキーム

日本の「人口最少県」である鳥取県に、全国から注目を浴びる地方創生の試みがある。県内の中小企業と都市の高度人材を、「副業」をキーワードに結びつける「週1副社長」プロジェクトという取り組みだ。

このプロジェクトは月3万~5万円という報酬で、鳥取県内の企業経営者が都市のビジネスエリートに仕事を依頼できるというもの。具体的には経営者が県の紹介する応募者から面接で選び、月に数度のオンラインミーティングで多種多様な業務について相談を行う。

業務内容は企業によって様々だ。人事制度の改革や新規事業の提案、ブランド構築やウェブサイトの作成……。中小企業の経営者はこのプロジェクトを利用することで、従来よりも圧倒的な気軽さでプロフェッショナルの知恵を借りることができる。2022(令和4)年度には162社265人のマッチングが成立。地方と都市をつなげる人材活用の成功例として大きな評価を得ている。

この取り組みの旗振り役となってきたのが、「鳥取県立鳥取ハローワークとっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」の戦略マネージャー・松井太郎さんである。松井さんはソフトバンクグループの出身。2015(平成27)年に内閣府が「プロフェッショナル人材事業」で46道府県に設置した「プロフェッショナル人材戦略拠点」の鳥取における戦略マネージャーとして、16(同28)年に就任した。地方企業と都市の人材をいかに結びつけるかという問題意識のなかで、彼が19(令和元)年に考案したのが、この「週1副社長」プロジェクトだった。

「地方では移住就職などで正社員を採用したくても、大企業並みの高い報酬を支払える資金が企業にはありません。人材紹介会社への高額な手数料も必要ですし、たとえ正社員を採用できたとしても、それに見合う仕事や待遇も用意できないのが現実です。そんななか、例えば大企業に勤める年俸1000万円の優秀な人材の力を『分割』して借りられるような仕組みを作れないかと考えたわけです」

また、戦略マネージャーとして鳥取県内の企業訪問を行ってきた松井さんは、「地方の中小企業経営者の多くは『孤独』なのです」とも続ける。

「事業について課題や悩みを持っていても、相談できる相手がいない。事業に対する困りごとを言えば、社員を不安にさせてしまう。利害関係者である金融機関にも全てを話せない。地方では噂もすぐに広まってしまいますから、商工団体等でも全てを本音で語るのは難しい。だからこそ、しがらみのない議論の『壁打ち』ができる相手を、彼らの多くが求めているんですね」

3万円が「ちょうどいい金額」になる理由とは?

しかし、高い報酬をすでに得ている大企業のビジネスパーソン側から見て、月3万~5万円という報酬は安すぎるのではないか、という疑問を抱く人もいるだろう。ところが、23(同5)年度の応募者は3109人。それだけ「週1副社長」として中小企業と関わりを持ちたいというニーズは多い。では、普段は都市の大企業で働く彼らは、このプロジェクトに何を求めているのだろうか。

「応募者の方々はこの『週1副社長』という副業に、お金以外の価値を見ています。地域に貢献したいという人もいれば、本業ではなかなか接点のない経営者と関わりを持てる機会に価値を感じる人もいます。勤務先の企業ではできない仕事や評価されない仕事が、地方企業との副業での関わりの中であれば可能になる。そうした経験を自分のキャリアにつなげ、力試しをしたいという思いを多くの方々が抱いているんです」

つまり、その際に3万~5万円という報酬は、雇う側・雇われる側の双方にとって「ちょうどいい金額」というわけだ。

「これが10万円だと、副業ではなく本業の領域になっていきます。そうすると経営者側は過剰な期待をしてしまう一方、副業人材の側にも大きな成果を求められるプレッシャーがかかってしまうでしょう。現状、ほとんどのマッチングが3万円。この金額であれば経営者は気軽に副業人材を活用しようと思えると同時に、応募者も『いまはIR(投資家向け広報)の部署で働いているけれど、学生時代に学んだマーケティングの知識を試してみたい』といった気持ちで力試しができます。もちろん報酬を受け取る限りは、それなりの仕事を提供したいというモチベーションもある。お互いがハッピーになる金額が『3万~5万円』なんです」

取材・文/稲泉連
写真提供/とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 3月号「単発企画」から抜粋したものです。

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