『理念と経営』WEB記事
特集1
2024年 3月号
たった一人になったときに 気づいた「引き算」の重要性
HRS.creation株式会社 代表取締役 大塚誉士 氏
技術に自信を持ち、意気揚々と起業した気鋭の美容師は、早々に挫折した。そのV字回復の原動力となったのは、提供メニューを極端に絞り込む「引き算」の経営だ。
選択肢が多すぎるメニューを見直し
カットとカラーだけに絞り込んだ
「どこで歯車が狂ったのだろう。何を間違ったのだろう。そんなことすら考える余裕がありませんでした」
リピート客が思うように増えず、スタッフが次々に辞めていく。ヘアサロンの開店から3年も経ないうちに、行き詰ってしまったと、大塚誉士社長はふりかえる。
独立開業したのは、美容師になってから、わずか4年後だ。確たる勝算などなかったが、なにより技術に自信があった。だから、店舗は賃借ではなく購入し、4名のスタッフを雇い入れた。
「まつ毛エクステやまつ毛パーマ、ネイル、個室エステティックまで、フルメニューを取り揃えました。お客様の美容のすべてに関わりたいという思いが強かったからです」
ところが、うまくいかなかった。ファクシミリで届いたチラシに飛びついてもみた。コンサルティング業者による経営サポートの広告だ。提案されるままに、メニューをさらに増やし、サービスクーポンの配布などにも取り組んだ。時間をかけて作業しても、結果は出ない。スタッフは疲弊して、次々と辞めていく。新たに雇ったスタッフも、早々に去っていく。とうとう、大塚社長はたった一人で取り残された。
「実は、一人になったことが転機でした」
とにかく人手がない。自分だけで施術して、お客様に満足してもらえるよう、メニューをカットとカラー(毛染め)に絞り込んだ。
「やる気を失ってしまったものの、借入金の返済は迫ってくる。仕方なく、できることしかやらなかった、というのが当時の本音だったようにも思います」
美容師としての腕の見せ所ともいえるパーマは継続したかったが、時間と手間がかかるのであきらめた。せっかく設けた個室を遊ばせておくにはしのびなく、VIP用に使うことにした。そうするうちに、明らかにリピート客が増え始めた。ゆとりある空間で丁寧な施術を受けられることに、支持が高まっていったのだ。
すると、人手が足りなくなる。スタッフを募って増員したところ、みな長く勤めてくれるようになった。カラーを自ら進んで学び、技術を高めるスタッフが集まったという。
カラーの要点は、髪の一本いっぽんに染料をむらなく定着させることにある。過不足ない量で実現できれば、なお効率がよい。大塚社長は工夫を凝らし、小麦粉などの天然素材を用いたオリジナルのカラー剤を開発した。
「においや刺激が少ないうえに、色味や仕上がりは従来品以上の高品質のカラー剤になりました。美容師にとっても扱いやすく、カラー剤自体が他店との差別化に役立っています」
乱発していたクーポンもやめて、
顧客の誕生日に一輪の生花を贈る
こうして、どん底から2年後には2店舗目を出店した。一時、直営店は5店舗にまで増えたがその後、経営者育成のため3店舗のれん分けし2店舗に減らした。「これも経営業務の引き算です」と大塚社長はいう。現在は直営2店舗、FC9店舗を運営している。
「美容のすべてをお客様に提供することに、無理があった。起業時のコンセプトが、失敗のもとだったのです」
ふりかえって初めて、気づいたと大塚社長は語る。
取材・文 米田真理子
写真提供 HRS.creation株式会社
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 3月号「特集1」から抜粋したものです。
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