『理念と経営』WEB記事

期待を超える価値が喜びと感動を生む

KeePer技研株式会社 代表取締役会長兼CEO 谷 好通 氏

自動車の洗車・コーティングサービスを手がけるKeePer技研(愛知県大府市)は“ぶれないお客様目線”を貫くことで発展を遂げてきた。創業者、谷会長の経営への思いとは。

“カーマニアのみ”から一般客へ

赤、青、緑、黄色……。さまざまな水性ペンキを浴びて走る白い車。ペンキのシャワーの中を通り抜けても車体は真っ白なまま――。そんなテレビCMがある。ペンキがつかないばかりか、雨の日には雨が汚れを落とし「勝手にきれい」になる。この画期的な車のコーティングを開発したのがKeePer技研だ。

そもそもの始まりは街のガソリン・スタンドだったという。

――ガソリン・スタンドでアルバイトをされていたそうですね。

谷 学生時代に働いていて、その会社の社長に見込まれて社員になり店長をやっているうちに仕事が面白くなって学校を辞めてしまいました。やがて地域のいくつかの店を統括するようになりました。そして、32歳のときに独立したんです。

――確か1985(昭和60)年だったと聞いています。

谷 そうです。その後、2号店を出したんですが、ガソリンの総量規制の関係で1年間はガソリンを売れなかったんです。店を遊ばせているわけにもいかず、車のコーティングの技術を習得してコーティングを始めました。

―それは従来のコーティングの技術ということですね。

谷 ええ。いわゆる普通のコーティングです。古い車には、ポリッシングといって、車体を研磨して新車のような状態に戻してからコーティングするんです。この研磨が大変なんです。何時間もかかるし、力も要る。その分、5万~7万円の料金をいただきます。こういうものを求めるお客さんは一部の車好きの方です。1日に2、3台と、客数は少ないんですが、ガソリンを売ることができなかった時期には収益になっていました。

ところが2号店でガソリンを売れるようになると、大勢お客さんがくるわけです。そういう一般のお客さんに提供できる、短時間で施せるコーティングの方法はないだろうかと考え始めたんです。

――研磨をしないでやれるもの、ということですか。

谷 そうです。その方法を模索したわけです。削って車体の細かい凸凹を平らに整えるのではなく、ファンデーションのように埋めていけないかと発想したんです。何百というケミカル(化学系)製品をいろいろな方法で試しました。本来の使い方と違うやり方をしたり、組み合わせを変えたりするなかで、これはイケるという……。

――明かりが見えた、と?

谷 ええ。最初のものはワックス程度のコーティングで3カ月ほどしか持たなかったのですが、5000円で始めたんです。

車と顧客の間にある「2乗の法則」

1993(平成5)年にはKeePer技研の前身となるアイ・タック技研を設立した。自社でワックスやコーティング剤を開発し、洗車、コーティングの技術提供、コーティング剤や道具などの販売を行うようになった。そうして98(同10)年に、愛知県刈谷市に直営店を出した。

「当時は『快洗隊(かいせんたい)』といっていたんですが、これが『キーパーLABO』の原型となる1号店です」

いま、同社の直営店は全国に100店を超える。

――理念は「お客様に喜んでいただく」だと伺っています。

谷 ガソリンを入れても、ガソリン・スタンドとしては当たり前のことですからお客さんは喜んでくれません。洗車も同じで、自分でも車は洗えますから付加価値はそんなに高くない。それがコーティングとなると違うんです。自分ではできない“きれい”をつくって差し上げれば、皆さん「わっ、新車みたい」とすごく喜ばれる。

私は車とお客さんの間に「2乗の法則」があることに気づいたんです。車が「1」のレベルできれいになると、お客さんは「1」喜びます。車が「2」のレベルできれいになると、お客さんは「4」喜ぶ。

――3だと9、4だと16……。

谷 そう。不思議ですが、お客さんの喜び方は2乗で増えていくんです。それで、もっとお客さんに喜んでもらおうと、新製品の開発に力を入れてコーティングの付加価値を追求してきたんです。5万円のものとか、7万円のものとか、いろいろつくってきて、極限まで行ってしまいました。



今年1月に発表した「TREXキーパー」。値段は50万円しますが、もう極限です。ノーメンテナンスで3年持ちます。驚くほどきれいになるし、汚れがつかない。汚れ自身が自重で落ちるんです。

――とどまっていられない!?

谷 車体を触っても触っている感じがしない。不思議な感覚です。名前は最強の恐竜ティラノサウルスからつけました。この商品は究極ですが、商品の付加価値を上げていくと、本当にお客さんが喜んでくださる。すると社員たちもやる気が湧く。「CS(顧客満足)とES(従業員満足)の同時実現」というのが理念に込めた思いです。じつは、うちの社員の採用基準は一つだけなんです。

――それは何でしょう?

谷 「相手が喜ぶと自分も嬉しい」という共感力があるかどうか。だから、お客さんの喜ぶ顔を想像してワクワク働く。そんな社員ばかりです。うちの離職率は4、5%くらいで、すごく低い。それはみんながやりがいを感じて働いてくれているからです。


『理念と経営』公式YouTubeにてインタビュー動画を公開!
(画像のクリックをお願いいたします  ※毎月20日公開!)

取材・文/中之町 新
撮影/亀山 城次


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 3月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

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