『理念と経営』WEB記事

第88回/『ひとり広報の教科書』

知識ゼロからの企業広報入門

従来、中小企業には、広報部はおろか、広報担当者すら置かれていないケースが多かったものです。

しかし、SNSの隆盛、「ワイヤーサービス」(プレスリリースを登録されたメディアに同報し、一般にも公開するサービス。例:「PR TIMES」)の登場など、中小企業でも広く一般に広報できる環境が整ってきたため、近年は「初めて広報担当を置いた」という中小企業が増えてきました。

中小企業においても広報の重要性が高まっている――そうした状況を踏まえ、『理念と経営』でも広報力アップを企図した記事を掲載することが増えてきました。

たとえば、2022年7月号の「プレスリリース活用術 7つの心得」がそうです。
また、詳細はまだ明かせませんが、2024年6月号にも「中小企業こそ広報に力を入れよ!」(仮タイトル)という記事を掲載予定です。

当連載でも、すでに過去2回――第3回『もし幕末に広報がいたら』(鈴木正義著/日経BP)と、第32回『BtoB広報 最強の攻略術』(日高広太郎著/すばる舎)――、広報入門を取り上げました。

今回取り上げる『ひとり広報の教科書』も、中小企業の広報担当者にオススメしたい1冊です。

企業広報の実務書は、すでに汗牛充棟の観があります。
それらの多くは、立派な広報部があるような大企業・中堅企業向けの本であり、内容は総じて専門性も高く、読むにはある程度の前提知識が求められました。

しかし、ここ1、2年、タイトルに『ひとり広報~』と冠したり、「小さな会社向けの~」と謳ったりする広報本が増えてきました。その1つが本書なのです。
そうした本が増えてきた背景には、本書の「はじめに」で書かれた次のような事情があります。

《近年は大企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業でも広報ポジションを置き始めています。企業情報を適切に発信して、自社のブランディングや採用活動につなげていくことの重要性が社会に浸透し、広報担当者を設ける会社が増えているのです。
 その結果、中小企業やスタートアップ企業を中心に、たった1人で広報活動を担う「ひとり広報」が増えています》

「初めて広報担当者を置いた」という中小企業の場合、社内に広報経験者は1人もいないケースが大半で、担当者は「何をしたらよいのかわからない。教えてくれる人も社内にはいない」という心細い状況に陥りがちです。

まさにそうした人向けに、知識ゼロから企業広報のいろはを教えてくれるのが本書なのです。

広報支援の豊富な経験を踏まえて

著者の井上千絵氏は、企業の広報チーム立ち上げと伴走支援を事業とする「株式会社ハッシン会議」の代表取締役。中小企業やスタートアップ企業の広報支援を専門とするプロフェッショナルなのです。

《これまでに200社以上の企業の広報を支援し、そのうち7割以上で広報の内製化を伴走させてもらいました》

中小企業などの「ひとり広報」の悩みに寄り添ってきた豊富な経験を踏まえた、《「ひとり広報」に特化した広報の教科書》なのです。

内容は、「かゆいところに手が届く」という趣の、気配りが行き届いたもの。
たとえば、全6章のうちの第1章では、「何から手をつければよいかわからない」という、「ひとり広報」スタート時の最大の悩みに応えています。

また、第2章には、広報活動に必要な基礎知識が手際よくまとめられています。
第3章では、「ひとり広報」が陥りがちな「社内での孤立」を防ぐため、「社内コミュニケーション」の要諦が解説されます。

第4章ではメディアからの取材に結びつけるためのポイントが語られ、第5章では「頑張っているのに成果が見えない」という「ひとり広報」のよくある悩みに応える「効果測定」「見える化」の方法が解説されます。

そして、最後の第6章では、さまざまなトラブル(社員の不祥事、SNSでの炎上、取材・掲載・放送を巡るトラブルなど)の対処法や、その防止策が解説されています。

まさに「教科書」の名にふさわしい、基本的な事柄が過不足なく網羅された内容です。
随所で具体例が紹介され、現役「ひとり広報」たちへのインタビューも掲載されるなど、分かりやすさへの配慮も申し分ありません。

中小企業経営者も必読の内容

本書は「ひとり広報」の担当者向けの入門書ですが、「初めて広報担当者を置いた」という中小企業経営者も必読の内容と言えます。経営者として、自社の「ひとり広報」をどうサポートしていけばよいのかも、本書を読めばわかるからです。

第1章では、新たに置かれた「ひとり広報」がまずやるべきこととして、「社長ヒアリング」が挙げられています。

《広報活動のゴールは会社の目指す方向性と密接に関連しています。ならば会社の代表である「社長」と認識を合わせる必要があります》
《新たに広報ポジションをつくった会社ならば、社長が広報を始めようと思った理由やきっかけが必ずあるはずです。そこを掘り下げながら、広報活動の目的を確認しましょう》

この一節が示すように、新たに広報担当者を置いた場合、社長とのベクトル合わせが何よりも大切です。
また、「ひとり広報」が軌道に乗ってからも、社長と広報担当は密接にコミュニケーションを取る必要があります。中小企業はとくにそうでしょう。そのためにも、経営者自身が本書を読み、広報の役割を理解しておくことが重要なのです。

新たに広報担当を置いた企業はもちろんのこと、これから置こうかと検討中の中小企業経営者にも、一読をオススメしたい良書です。

井上千絵著/日本実業出版社/2022年11月刊
文/前原政之

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