『理念と経営』WEB記事
企業事例研究1
2024年 2月号
人の移動の仕組みを最先端にしていく

株式会社電脳交通 代表取締役社長 近藤洋祐 氏
乗務員の高齢化や人手不足、マーケットの縮小など地方のタクシー業界は危機的状況にある。さまざまな課題を「ITの力で解消したい」と近藤洋祐さんは力強く語る。
課題だらけだった家業を再建
電脳交通(徳島県徳島市)を立ち上げた近藤さんは、一味違う学生時代を過ごした。高校を卒業すると、大リーガーを目指して渡米したのだ。
あえて日本人が少ないアイオワ大学を選んだ。経済学部に留学し、野球部に所属した。大学の講義はディスカッション中心で、コミュニケーション能力を鍛えられたという。
「秘訣は自分を冷静に見ることなんです」と、近藤さんは笑った。野球もそうしたのか、卒業と同時に夢をあきらめて帰国。祖父が経営する崖っぷちのタクシー会社に入社した。
―吉野川タクシーに入られたのは24歳のときと伺っています。
近藤 そうです。祖父が創業して祖母と母が事務や経理をしていた会社です。保有するタクシーが9台で乗務員が13人。徳島市で一番小さなタクシー会社でした。
―倒産一歩手前だったとか?
近藤 はい。祖父が脳梗塞で倒れて現場に出られなくなっていて、力になれればと入社したんです。母とするのは資金繰りの話ばかり。とにかく自分も二種免許を取って売り上げに貢献しようと思いました。
―会社はどんな雰囲気でした?
近藤 乗務員の平均年齢が70歳を超え、みなさん年金の足らない分だけ稼げればいいという感じで、いわばタクシー業界の課題をそのまま抱えている会社でした。
ある冬の日、通勤に使っていた自転車が橋の真ん中で壊れたことがありました。その日は事故を起こした乗務員がいたりして、資金繰りも、営業も上手くいかないし、もういっぱいいっぱいで橋の上に寝転んで泣いたことを覚えています。
―よく踏ん張れましたね。
近藤 家族を不幸にしたくないという思いが強かったんです。だからかな、と思います。経営再建といっても何から手をつけていいかわからなかったのですが、お客様に選んでいただけるタクシーにしたいとは思っていました。それで、マナー講習を取り入れたりしていきました。
―服装や言葉づかいですか?
近藤 はい。「そんな面倒なことはいやだ」と乗務員たちが辞めていきました。新しく乗務員を募集すると、結果的に平均年齢が40歳台に若返っていったのです。
―数年でV字回復されました。
近藤 お客様に選んでいただくために車も新しいものに変えました。ハイブリッド車にすることで燃料コストが売り上げ比8%から5%まで落とせました。こうした合理化を進めたことが一つ。そして集客力を上げるためにターゲットを絞り込んだ施策も打ち出しました。たとえば、妊婦送迎サービスの「マタニティー・タクシー」や塾に通う子どもたちを送迎する「キッズ・タクシー」などです。
―話題になったそうですね。
近藤 地元メディアで取り上げてもらって、その効果で若い人を採用することもできたのです。私もブログの掲載などを積極的に行っていました。吉野川タクシーに関する口コミは高評価ばかりで、グーグルレビューは5点中、4.8点。こうしたロイヤルカスタマーに支えられて、年商を以前の1.5倍にできました。
経営者も高齢化が進むタクシー業界
―電脳交通を設立されたのは2015(平成27)年の12月ですね。
近藤 そうです。じつは徳島県は課題先進県なんです。少子高齢化が強烈に進んでいるし、マイカー天国で運動量が少ないから生活習慣病、なかでも糖尿病患者数は人口当たり全国で一番多いなど、問題が山積みなんです。そんななかでタクシー会社の再建ができたことが、電脳交通につながったと思っています。
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取材・文 中之町新
撮影 宇都宮寿輝
本記事は、月刊『理念と経営』2024年 2月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。
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