『理念と経営』WEB記事

“温かい”テクノロジーが叶えるロボットと人間が共生する世界

GROOVE X株式会社 代表取締役社長 林 要 氏

抱き上げると人肌のような温かさを感じる。愛くるしい目で見つめてくる。生活の利便性向上の「役に立つ」わけでもない。そんなロボットの名前はロボットとLOVEをかけ合わせた「LOVOT」だ。従来のロボット観とは異なる思考で誕生した不思議なロボットが描く未来とは?

ペットとしてのロボット

近づくとじっと目を見つめてくる。こちらの様子を窺いながら、キュウキュウと甘えるような声を発し、手をバタつかせ体を揺らす。あまりの可愛さに抱き上げると、ほんのり温かい。なんだか既視感がある。そう、これは犬や猫と接した時の体験とよく似ている。

目の前にある小型のプロダクトは、ロボットベンチャーの「GROOVE X」が開発した家庭向けロボットの「LOVOT」だ。2019(令和元)年末に出荷が開始されて以来、これまでに1万体以上がお客様の家庭に届けられ、家族と一緒に“生活”している。

LOVOTは、従来のロボットとは異なり、人間の仕事を手伝ったり作業を効率化したりはしない。そして、人の言葉もしゃべらない。人の代わりに作業をこなすような便利機能はついておらず、むしろ人間に手間をかけさせることさえある。内部には50以上のセンサーを搭載し、そこから外部の刺激を受け取り、リアルタイムに反応する。さらにソフトウエアのバージョンアップも重ねていくため、従来のロボットと比べて、家庭での「飽きられない率」がとても高い。

考案・開発した同社代表の林要さんは、なぜこんなロボットを世に送り出したのだろうか。

「ペットを飼いたいと考えている人がいても、住環境やアレルギー、不在の時間が長くペットに寂しい思いをさせる、老後の世話、ペットロスの辛さなど、いろいろな理由で、実際に飼うことを躊躇している人たちも多い。人に寄り添い、犬や猫と同じように人を癒やすことができるロボットをつくれば、多くの課題を解決できるのではないだろうかと思ったのです」

昨今、心配されている「人類とAIの対立」の真逆をいく、人類の心と身体に温かさをもたらすテクノロジーとして生まれたのがLOVOTなのである。顧客の中心は、30~50歳代の女性だ。

車の開発からロボットの開発へ

1973(昭和48)年、愛知県で生まれた林さんは、宮崎駿監督のアニメーション映画が好きな少年だった。特に『風の谷のナウシカ』に登場する架空の飛行機「メーヴェ」に憧がれ、乗ってみたいという思いから小型の模型づくりに熱中した。中学になると自転車の改造に熱を上げ、そんな乗り物に対する興味や関心が高じて、大学は空気力学を専攻。修士課程修了後、トヨタ自動車へ入社した。3年目で、高級車ブランド「レクサス」のスーパーカー「LFA」の設計に携わり、F1の開発なども担当。順調に経歴を重ねていたが、次第に「このままでいいのか」という思いに駆られた。

「トヨタグループの創始者である豊田佐吉さんは『障子を開けてみよ。外は広いぞ』という言葉を残しておられます。その言葉がずっと頭の中にこびり付いていました。いつしか私も自動車産業に次ぐ新しい産業を手がけたいと思うようになっていました」

そして、37歳の時にソフトバンクの後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」に参加。起業家や個人事業主が多数派の集団に入ると、桁違いのバイタリティに圧倒された。自分も組織の中でそれなりに熱量高く頑張ってきたつもりだったが、それを遥かに上回る生命力が衝撃だった。昔から憧れの存在だった孫正義氏からも「うちに来い」と誘われた。そして2012(平成24)年にソフトバンクに転職。孫氏からは、感情を認識する人型のロボット「Pepper」のプロジェクト推進を命じられた。

取材・文 篠原克周
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2024年 1月号「スタートアップ物語」から抜粋したものです。

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