『理念と経営』WEB記事

戦う土俵をズラせば、 弱みは強みに変わる

株式会社岡田商会 常務取締役 岡山耕二郎 氏

ハンコ業界の斜陽化が進む中で 2 代目を待ち受けていた、先の見えない苦境。その果てに見いだした突破口は、自社の強みを時代に合わせて発揮する道だった。

入社時から延々と続いた、暗中模索の消耗戦の日々

岡田商会は、創業以来40年以上「ハンコの町工場」として歩んできた。岡山耕二郎常務は、創業者で社長の岡山嘉彦さんの長男。家業が直面した逆境と真正面から向き合い、それを乗り越えた立役者である。

少年時代から家業を継ごうと考えていた岡山さんは、2000(平成12)年、神戸大学卒業と同時に入社した。その際、父から言われたのは「この業界は斜陽だから、覚悟しておけ」の一言だったという。

「安価でハンコを作るフランチャイズ・チェーンが、全国に急速に増え始めたころでした。同じころ、ハンコのEC販売(ネットショップ)も普及し始めて、そのダブルパンチで、路面に店舗を構える印章店の売り上げがジリジリ下がっていました。父はそうした変化に強い危機感を覚えていたからこそ、『覚悟しておけ』という言葉になったのでしょう」

親世代には手に負えない、EC販売という新分野。入社間もない岡山さんが、その担当を任された。
「参考書と首っぴきで、見よう見まねで自社のネットショップを立ち上げました」

だが、そこから長い暗中模索の日々が始まった。
「ネットショップには商圏なんて関係ありません。遠く離れた土地のショップでも、安ければお客様はそちらで注文します。しかも、どこが安いかは検索すればすぐにわかるのですから比較も容易です」
他のネットショップに勝つ方策といえば、価格を下げるか、出荷スピードで勝負することしか思いつかなかった。とくに、値下げ競争は過酷な消耗戦であった。

「ライバル店の価格は常にチェックして、それより10円でも安くするようにしていました。出店しているECモールが大きなセールをするタイミングで、担当者から大幅な値引きを求められることもよくありました」
安さを追求すればするほど、利幅は小さくなり、スタッフたちはみるみる疲弊していった。

「一生懸命作ったハンコが安値で叩き売られるのですから、当たり前ですよね。社内の雰囲気も悪くなっていきました。でも、当時の僕には、他に何をしたらいいのか、まったくわからなかったのです」

ようやく見つけた鉱脈。
アイデアは愛猫がもたらす

さらに安売り競争が激しくなり、泥沼の値下げ競争が数年に及んだころ、月に1000万円もの赤字が出るような状態になっていた。2015(平成27)年のことである。「このままの状態が続いたら、あと何年会社が持つかという瀬戸際に追いつめられていたのです」
対策は思いつかず、「うちはハンコ屋なんだから、何かお客様が喜ぶことをしよう」と漠然と考えて、ビジネスアイデアを探していた。

当時、岡山さんは「保護猫カフェ」(保護猫と里親希望者のマッチングをする形式の猫カフェ)で出合った猫を飼い始めていた。
「可愛がっているうちに、『猫のイラスト入りのハンコを作ったら、猫好きが注文してくれるかもしれない』とひらめいたんです」

たまたま、イラストの得意な新しい若手スタッフを採用したばかりだった。そのスタッフに描いてもらった十数パターンの猫イラストで名字にあしらうハンコを、「ねこずかん」と銘打って発売した。岡田商会にとって、初のオリジナル商品である。

「発売開始が2015年12月26日で、年明けにチェックしてみたら、売れたのはたった4本でした」
落胆する岡山さんを見て、奥さんが「プレスリリースを作って打ってみたら?」とアドバイスしてくれた。別の仕事に就いている奥さんには、関わった商品がプレスリリースの効果で売れた経験があったのだ。

取材・文 編集部
写真提供 株式会社岡田商会


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 12月号「逆境! その時、経営者は…」から抜粋したものです。

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