『理念と経営』WEB記事

「仕事の段取り」超基本

クリエイティブディレクター 株式会社good design company 代表取締役 水野 学 氏

数値ではない、“真のゴール”の共有を

くまモン、茅乃舎[かやのや]、中川政七商店……。数々のブランディングを手掛けてきた希代のクリエーターのもとには、ひっきりなしに仕事が舞い込む。数十件ものプロジェクトを同時に進めることができるのは「段取り」のなせるわざなのだという。

「時間」ですべてを決める

―チームとしての段取りを考えるうえで、最も大切なことに「ゴールの共有」を挙げておられます。

水野 実は意外に難しいのが、ゴールが何なのか、はっきりさせることなんです。だから、クライアントと仕事をするときには、徹底的にゴールとは何かを聞きます。ゴールというとKPI(重要業績評価指標)などの数値を思い浮かべる方もおられるかもしれませんが、数値でないゴールがあるんですよね。このブランドによって世の中をどう変えたいかが、真のゴール。それをどのくらいきちんとはっきりさせ、共有できるか、が大事です。

優秀な経営者の多くは、ゴールをビジュアルで考えていると感じています。言語だけではなく、写真や映像などビジュアルでイメージできている。言葉を換えると、わかりやすい世界観があるということです。これがあると、メンバーにも伝わりやすい。みんながゴールをイメージしながら、仕事を進めていくことができます。

僕は頼まれてもいないのに、ゴールのイメージをビジュアルに落とし込んでしまうことがあります。そのほうが、わかりやすいからです。写真を選んでみたり、ポスターを作ってみたり、映像やパンフレットを作ってしまうこともあります。ビジュアルでゴールを共有することも、一つの方法です。

―段取りで難しいのは、予期せぬ事態です。周到に準備をしても、軌道修正が必要になったりする。チームで多くのプロジェクトを抱えておられますが、どうしていますか。

水野 まず、最上位概念は時間なんですね。いいものを作ろうと考え、いくらでも時間をかけるという考え方もありますが、僕はそうは考えません。時間をしっかり守る。締め切りまでに終わらせる。時間が最も大事だということです。

そのためにも大切になるのが、スケジュールに余白を持たせておくことです。プロジェクトのスケジュールもそうですし、個人のスケジュールもそうです。僕は、午前中はできるだけスケジュールを入れないようにしています。そうすれば、もし緊急事態が発生しても、対応することができます。何もなければ、やらないといけないこと以外のことができる時間になります。

スタッフにも、同じようにアドバイスしています。一日最低でも60分は予備の時間を確保しておく。そのつもりで、スケジュールを立てる。そうすることで、とっさのことにも対応できるようになります。そして、立てたスケジュールをしっかり守る。計画の時間を過ぎることは遅刻と同じだ、と伝えています。こんな意識を持っているオフィスワーカーは少ないと思います。でも、これくらい意識すれば、しっかり余白も考えるようになります。

仕事と人生の距離を近づける

―また、チームで段取りよく仕事をしていくには、スタッフ間のコミュニケーションが欠かせません。ご著書では、「仲間関係をつくる」ことの大切さを語られていますが、日頃からどんなことに気を配られていますか。

水野 僕自身は、ちょっと多すぎるかな、というくらいにメンバーとコミュニケーションしています。特に伝えているのは、仕事を通じてできる仲間の価値です。平日、起きている時間のかなりの割合は仕事をしているわけで、そう考えると人生の多くを共に過ごす仕事仲間はある意味、友達以上に密度の濃い関係。友達は利害関係がありませんが、仕事で利害関係だらけでも仲が良くなれたら、むしろその絆はとても強いと思うんです。だから、仕事でいい仲間をつくれたら人生はもっと豊かになるよね、という話をしています。

若い頃は、仕事と人生に距離を置くケースが少なくないですよね。実は僕自身もそうでした。仕事は苦しいもの、という考えも強かった。しかし、会社のプロデューサーでもある僕の妻はまったく違う考えを持っていました。彼女は、仕事は楽しいものだ、働く喜びと生きる喜びはイコールだ、という考えだった。だから、付き合い始めた若い頃は話がなかなか合いませんでした(笑)。ところが、やがて僕も仕事が楽しくなっていくと、仕事と人生はくっついているんだということに気がつきました。この気づきを得られたら、人生そのものが充実していきました。

25年間、経営者をしていて感じるのは、やっぱり若いうちは、仕事と人生が離れている人も多い、ということです。だから、仕事にはこんな楽しみ方があるんだよ、と背中を押してあげたい。仕事の仲間といい関係をつくるのも、その一つ。こんな考え方もあるんだよ、と伝えつづけることで、職場の仲間意識は大きく変わります。

迷う時間を減らすための「ルーティン化」

―共通化できる部分を定型化、ルーティン化してムダを省き、そうすることによってこそ創造的な作業に集中できる、というのが水野さんの段取り力の肝ですが、そのスタイルをチームで徹底させるために、どんな工夫をされていますか。

水野 仕事の時間では、迷っている時間がとても長いんです。考えているのではなく、これでいいのか、と迷っている。この迷っている時間、選択する時間をできるだけ短くしてくれるのが、ルーティン化だと思っています。

取材・文 上阪徹
撮影 富本真之


この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2023年 12月号「強いチームをつくる」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。