『理念と経営』WEB記事

シニア活用のパイオニアが培った “働きたい職場”づくりの秘訣

株式会社加藤製作所 代表取締役社長 加藤景司 氏

創業135年の老舗企業が踏み切ったのは、未経験者可のシニア雇用。教育・研修ノウハウの蓄積と働き方改革、バリアフリーが加速し、多様な人材が「働きたい」職場ができあがった。

和菓子職人が難加工の名手に

昔、村には必ず鍛冶屋があった。暮らしや生業に必要な農具や刃物などを造り、修繕してくれる。岐阜・中津川市に本社を置く加藤製作所のルーツも、そうした鍛冶屋である。創業は1888(明治21)年、加藤景司代表取締役社長は4代目に当たる。

同社の事業は、変遷を繰り返している。創業後まもなくして、木曽川流域で盛んだった水力発電や製紙工場の設備に係る仕事を請け負うようになった。第二次大戦中には、家電メーカーの工場が近隣に疎開・移転してきたため、協力会社として部品製造を担った。加藤社長が入社した頃には、水力発電所の請負工事などの事業部があったという。

「企業経営は、環境適応の営みにほかなりません。当社も紆余曲折がありました。現在の取引先は100社を超え、家電、自動車、環境、航空機、住宅設備など、広範な業種をカバーしています」

目指すのは、10業種・10社・10%の全天候型。限定された取引先に売り上げを依存することなく、環境変化にあっても、したたかに経営を持続する体制づくりを続けることが、加藤社長の経営だ。そんな同社も、人員不足にあえぐ時期が長かった。中津川市の人口が減少していき、若年層は名古屋などの大都市に職を求める。それでなくても、製造業で働きたがる若者は多くはない。そこで、2000(平成12)年12月、大きな決断をした。

「シニア人材を雇用しよう!」通勤圏に居住する高齢者に、求人ターゲットを向けたのだ。経験者を雇いたいのはやまやまだが、そんなことは言っていられない。
「とにかくやってみよう、うまくいかなければやめればいいんだから。楽観的かつフットワークが軽いことが、中小企業の特長ですからね」

そして翌4月、14名を土曜・日曜・祝日限定勤務として迎え入れた。男女同数で、金属加工等の経験者は、なんと皆無だった。不安だらけのスタートだ。
「新入シニアもたいへんだけど、受け入れる既存社員もたいへんでした」
体力、視力などには、ハンディがついてまわる。慣れないカタカナの製品名を覚えるにも時間がかかる。

平日を経て次回出社時には、覚えたことを忘れてしまう。予想通りとはいえ、苦笑を禁じ得ない、当初の状況だ。
「半年ほどたつと、平日も働いてもらいたいほどスキルが向上しました。これはいける、と手応えを感じるようになりました」

いまやシニア人材は、同社のかけがえのない戦力だ。たとえば、当地の名菓・栗きんとんをつくっていた元和菓子職人さんは、金属加工でも難しいとされる航空機部品の製造に携わるようになったという。

環境を整備し改善を引き出す

シニア人材の受け入れは、同社の変革を加速した。
「年金を受給しながら、ムリなく働いていただくのが、当初からのコンセプトです。労働環境や労働条件に対する要望に100%応えていくため、働き方改革はたくさんやってきました」

取材・文 米田真理子
写真提供 株式会社加藤製作所


この記事の続きを見たい方
バックナンバーはこちら

本記事は、月刊『理念と経営』2023年 12月号「特集2」から抜粋したものです。

理念と経営にご興味がある方へ

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。