『理念と経営』WEB記事

企業には『踏ん張り時』がある

株式会社ナンガ 代表取締役社長 横田智之 氏

アウトドアや街で「NANGA」のロゴの付いたウエアを着た人をよく見かけるようになった。寝袋の技術を生かしアパレルに進出したナンガ(滋賀県米原市)の軌跡に迫る。

失敗から学び次のチャンスに備える

良質なダウンを使ったジャケットやプロ仕様の寝袋で知られるナンガ。同社のホームページには、社名についてこう書かれている。

「ブランド名ともなる社名は、ヒマラヤ山脈にそびえたち屈指の難易度を持つ、人食い山と恐れられる世界9位の高峰ナンガ・パルバットにちなんで名付けられた。そこには、どんな困難も従業員とともに乗り越えていくという決意が込められている」と。

まさに社名が、そのまま企業の志なのである。

――ナンガに入社されたのは2001(平成13)年ですね。

横田 そうです。よそで働いていて、ある程度の結果を出していたんですが、「帰ってこい」と言われまして。『いずれは家に戻らないといけない』とは思っていたので、素直に帰ってきました。

――当時、会社はどんな様子だったのですか。

横田 従業員が12人くらいだったでしょうか。寝袋を作っている売り上げ7000万円くらいの小さな会社でした。

――入社してすぐ、先代に「山に行け」と言われたそうですね。

横田 登山のインストラクターを養成する長野の教室に2カ月行きました。アウトドアを学んできなさい、ということだったと思います。僕は登山をしたことがなかったので、ほんと地獄でした。40~50kgの荷物を背負って、3000m級の冬山を登るんです。

その教室には中綿が化繊の寝袋しかなかったので、すぐにうちの羽毛の寝袋を送ってもらいました。羽毛の暖かさをみんなで検証したりして、勉強になりました。このときの経験はいまも活きています。

――その後、ダウンジャケットの試作を始められます。

横田 ええ。寝袋は使う人の範囲が狭い。僕はアパレルに興味があったので、寝袋を作っているだけでは面白くなかったんです。友人から「何作ってるの?」と聞かれて、「寝袋」と言うのと、「ダウンジャケット」と言うのではイメージが違いますよね。「どこで売っているの?」と聞かれて、「アウトドアショップ」と言うのか、「アパレルショップ」と言うのかでも違います。

――確かに寝袋はニッチですね。

横田 寝袋とジャケットは材料や使うミシンも同じなんです。違うのは作り方のノウハウだけです。僕ら2代目、3代目は先代から受け継いだ資産があるわけで、それを活かして、いまあるビジネス プラス何かをすることが大事だと思っています。僕の場合、それがダウンジャケットだったわけです。

――2005(同17)年にはダウンジャケットのOEMの依頼があったそうですね。

横田 はい。だけど納期が3週間も遅れました。襟の縫製とかも甘かったりして、なんだかんだ200万円くらいの赤字でした。親父に「もう止めろ」と言われました。

――しかし、止めなかった。

横田 止めたら、そこで終わりです。この失敗から学んだことがたくさんあるので、止めなかったというより次は黒字にできる自信があったというほうが正しいですね。何がダメだったのかを考え、裁断や縫製などのノウハウを学び直して次のチャンスに備えていました。

アパレルの人たちは小ロットで製品が作れる工場を探していたんです。それに対応できる工場は国内には10社もなかったので、必ずチャンスはくると思っていましたし、実際にまた依頼がきました。


『理念と経営』公式YouTubeにてインタビュー動画を公開!
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取材・文 中之町新
撮影 宇都宮寿輝


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 12月号「企業事例研究1」から抜粋したものです。

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