『理念と経営』WEB記事

母親を笑顔にすることが良い社会づくりにつながる

株式会社やまやま 代表取締役 猪原有紀子 氏

規格外のフルーツを使い、無添加のグミを作るという事業モデルで起業した株式会社やまやまの猪原有紀子さん。壁を次々に打ち破ってきたその原動力は、どこにあるのか。

地方移住に乗り気にさせた「ある光景」

和歌山県の北西部にあるかつらぎ町は、人口1万5000人ほどの山間の自治体だ。株式会社やまやまの代表・猪原有紀子さんが、この町に移住したのは5年前。大阪の通信会社に勤める夫の祥博さんの出張に付き合う機会があった際、彼が高台の耕作放棄地から見える風景を前にぽつりとこう言ったのだという。

「ここなら住んでもいいな……」

かつらぎ町は果樹の生産が盛んな町だ。そして、なだらかな山に果樹の畑が連なる風景に、「夫は一目惚れしたみたいなんです」と猪原さんは笑う。

「当時の私には地方移住への憧れはまったくありませんでした。でも、夫は何度もかつらぎ町に連れ出し『ここに住みたい』と言うんです」

それから5年後、3兄弟の母になった猪原さん。三男が生後1カ月のタイミングで、一家はかつらぎ町に移住した。そして、この地で彼女が2019(令和元)年に起業したのが「株式会社やまやま」だ。

同社は母親が文字通り「くつろげること」をテーマにした観光農園・キャンプ場の「くつろぎたいのも山々」、そして、規格外で廃棄されるフルーツを使った「無添加こどもグミぃ~。」の製造・販売を主な事業としている。最初は後ろ向きだった移住に、猪原さんが乗り気になったのは後者の商品の開発がきっかけだ。この地で、大量に廃棄される規格外の柿を見たことが、「こどもグミぃ~。」の開発を始めた理由だった。

「あるとき、山のように廃棄されている鮮やかなオレンジ色の柿を見て、『あ、これでグミを作ろう』と思ったんです。その事業をやるのであれば、当時暮らしていた大阪市内のマンションでは難しかったので、移住するのもいいなって思い始めたんです」

子どもを理不尽に怒らなくて済むように

廃棄フルーツを使用した無添加のグミ――。そんな商品を作りたいと考えた背景には、猪原さん自身が子育ての中で抱えていたある悩みがあった。当時、インターネット広告を手がける大手企業に勤めていた彼女は、年子の2人の息子を育休を取って育てていた。だが、そのなかで育児ストレスに悩み、いわゆる「産後うつ」を経験した時期もあったという。

「育児ストレスにはご飯、歯ブラシ、授乳などさまざまなものがありますが、なかでも私を悩ませていたのが『おやつストレス』でした。本当は添加物の多いおやつは食べさせたくないのに、疲れ切ってしんどいとき、子どもにせがまれると、『静かにして!』と口止めするかのように与えてしまう罪悪感がありました」

それまで会社で大きな仕事も任されていた彼女は、同期が出世したり、通っていた経営大学院の同級が起業したりする様子をSNSで見る度、「自分の中からキャリアがこぼれ落ちていくような感覚」を覚えていたとも振り返る。心に余裕がなく、子どもを思わず強く叱りつけてしまうことも多かった。

そんなときにかつらぎ町で目にしたのが、鮮やかな柿が山盛りになって廃棄されている光景だった。長男が喜んで食べる無添加のグミがないかを探していた彼女は、「ないのであれば、自分で作ろう」と思ったのだった。

「だから、『無添加こどもグミぃ~。』には、砂糖やゼラチンも入っていません。規格外の廃棄フルーツでグミを作ると聞くと、フードロスという社会課題を解決する事業だと思われる人も多いかもしれません。ただ、私にとってそれは手段に過ぎません。お母さんのおやつストレスを解決して、子どもを理不尽に怒らなくて済むようにしたい、ということがスタートだったわけです」



国産規格外フルーツを100%使用した「無添加こどもグミぃ~。」

取材・文 稲泉 連
撮影 編集部


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本記事は、月刊『理念と経営』2023年 11月号「スタートアップ物語」から抜粋したものです。

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